産総研ら,3次元物体表面でCNTの成長に成功

産業技術総合研究所(産総研)は,マイクロフェーズと共同で,多層カーボンナノチューブ(CNT)を,金属や炭素材料からなる3次元物体の表面に成長させる方法を開発した(ニュースリリース)。

この方法では,化学気相成長法(CVD法)によるCNTの成長に必須である金属触媒の担持層を,従来のスパッタリング法ではなく大気雰囲気中で容易に行える粒子ブラスト法により形成することに世界で初めて成功した。

近年,CNTの反射率がほぼゼロである特性に着目し,CNTを遮光材や発光体に利用する試みが注目されている。しかし,汎用的な光学機器の内部にCNTが遮光材として使用された例はない。

これは,従来のCNT成長法がスパッタリング法のような真空中で行なう高度な表面前処理を必要とするため,成膜できる物体の形状が制限されるため。

今回開発した成長法は,様々な金属や炭素材料の3次元形状の物体表面に,スパッタリング処理せずに多層CNTを簡便に成長させることができる。

具体的には,タングステン(W)を含む18種類の金属や炭素材料の物体表面に,アルミナ粒子による粒子ブラスト処理を行なった後,鉄蒸気を触媒としたCVD法により物体表面へのCNT成長実験を行なった。その結果,18種類の物体表面全てで,多層CNTの黒色皮膜が均質に成長することを確認した。

この技術により,例えば,円筒形状のレンズ鏡筒内部に多層CNTを直接成長させて鏡筒内の散乱光を大幅に抑制することでカメラや天体望遠鏡の解像度・光感度を大幅に向上させることが期待されるという。

また,この技術は,単層CNTと多層CNTのどちらの成長にも必要である金属触媒の担持層の成膜に簡便で低コストの粒子ブラスト法を用いており,その条件の制御により成長するCNTの特性を制御できる可能性があり,CNTの新しい成長法として幅広い応用も期待されるとしている。

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