東京大学は,大阪大学,Australian Nuclear Science and Technology Organization(ANSTO),台湾成功大学と共同で,フラストレート磁性体の一種であるブリージングパイロクロア磁性体Ba3Yb2Zn5O11について中性子散 乱実験を行なった(ニュースリリース)。
その結果,磁気スペクトルは二つの安定状態を有する正四面体スピンモデルで説明され,熱力学の法則と一見矛盾する結果が得られた。
四面体の頂点にスピンが配置しお互いが反対向きに向きたがる場合,スピン同士にフラストレーションが生じるため(フラストレート磁性体),複数の最安定状態が存在することが知られている。
しかし物質中でこの状態が実現することは,絶対零度でエントロピーはゼロであるとする熱力学の第三法則と矛盾する。自然界はこの矛盾を解消するために,科学者に気づかれにくい方法で,新しい状態を発現させる。このためフラストレート磁性体は,物性物理学の分野において,新しい状態の探索の場として興味を持たれている。
そこで,さらに極低温比熱測定を行なったところ,絶対零度に近づくにつれてエントロピーが徐々に変化し,最終的に一つの状態が選択され,新しいスピン液体状態が実現していることが確認された。
研究では,ブリージングパイロクロア磁性体において,中性子散乱実験と極低温比熱測定を組み合わせることで,新しいスピン液体が実現していることを明らかにした。
このスピン液体の詳細を知るためには,極低温高分解能中性子実験や現実物質に即したさらなる理論研究が必要。スピン液体の詳細が明らかになれば,量子コンピュータのデバイスとして利用されることが期待されるとしている。
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