東北大ら,グラフェンナノリボンの集積化合成に成功

東北大学と東京大学,北海道大学は共同研究により,次世代の超高性能電子デバイスに大きな貢献が期待されているグラフェンナノリボンのウエハースケールでの集積化合成手法の開発に成功した(ニュースリリース)。

グラフェンシートは,優れた電気伝導特性,柔軟な機械的構造,高い光透過性を合わせ持つ次世代の炭素ナノ材料として大きな注目を集めている。一般にグラフェンシートは2次元シート構造をとっており,バンドギャップを持たない金属的振る舞いをする。これに対してグラフェンシートが㎚オーダー幅の1次元リボン構造(グラフェンナノリボン)をとることで,グラフェンシートに有限のバンドギャップを発現させ得ることが近年明らかになった。

しかしながら,このグラフェンナノリボンの構造(リボン幅,長さ等)を制御して合成する手法,及び基板上の狙った位置と方向に合成する技術は開発されておらず,大きな課題となっていた。これまで研究グループは,この課題を解決可能な画期的な合成法を開発してきたが,この従来手法では合成効率が低いことが大きな課題となっていた。

これまで研究グループが開発した手法は,独自に開発した急速加熱拡散プラズマ化学気相堆積法とニッケルナノバーを反応触媒として利用するというもの。このため,ニッケルナノバーという特殊な触媒から架橋した構造のグラフェンナノリボンが合成される機構が全く解明されておらず,このことが合成効率を向上できない一つの要因となっていた。

そこで研究では,さまざまな合成条件を系統的に変化させて実験を行ない,さらにこれらの結果をニッケル液滴の安定性に関する分子動力学シミュレーション,及びニッケル-炭素2元系合金に関する相図を用いた理論解析と組み合わせることで,実験と理論の両側面からの合成機構解明に向けた研究を行なった。

その結果,架橋グラフェンナノリボンの合成モデルを実証した。さらにこれらの合成機構をもとに合成条件の最適化を行なった結果,センチメーターオーダーの基板上に1,000,000本以上の架橋グラフェンナノリボンを90%以上の高効率で集積化合成することに成功した。また,偏光ラマン分光測定の結果から合成したグラフェンナノリボンのエッジ構造は,ジグザグ型に近い構造を支配的にとることも明らかになった。

このような架橋グラフェンナノリボンをウェハースケールで合成したのは世界で初めて。これにより,これまで基礎研究に限定されてきたグラフェンナノリボ ンの研究を,実際のデバイス応用へと展開する非常に大きな貢献が期待されるという。

また,今回合成したグラフェンナノリボンが基板から浮いた構造をとっているため,ナノスケールでの機械的振動が可能であることから,今後グラフェンナノリボンの電気,光,及び機械的特性を合わせた新概念デバイスの実現に向けた研究の進展が期待される。さらに,今回合成されたグラフェンナノリボンがジグザグ型に近いエッジ構造を持つことから,ジグザグエッジに局在することが理論的に予測されている特殊なスピン状態を利用したデバイス開発への貢献も期待できるとしている。

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