東大ら,130億光年彼方で一般相対性理論を検証

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)を中心に,東北大学,京都大学からなる研究グループは,FastSoundという銀河サーベイを遂行し,赤方偏移の値が1を超える宇宙での重力理論の検証を行ない,130億光年彼方での一般相対性理論の検証に成功した(ニュースリリース)。。

FastSoundは,ハワイ島マウナケア山のすばる望遠鏡に,京都大学とオックスフォード大学が主導し開発したFMOS(Fiber Multi-Object Spectrograph)という分光器を取り付けて,赤方偏移の値が1.2から1.5すなわち,共動距離で約124億光年から147億光年の宇宙における銀河までの距離を測定した。

研究グループは,その中での個々の銀河の運動を調べ,大規模構造の成長速度の測定に成功した。測定の統計的有意度は99.997% で,100億光年を超える遠方宇宙でこれだけの有意度で成長速度を測定できたのは世界で初めて。その測定値を一般相対性理論の予想値と比較したところ,測定誤差の範囲で一致していることがわかった。

宇宙はビッグバン以来,膨張を続けており,単純な理論予想では,その膨張は減速していくはずが,近年の詳細な宇宙の観測から,逆に加速膨張していることがわかっている。

その原因は謎で,ダークエネルギーと呼ばれる謎のエネルギーが宇宙を満たしているか,宇宙論が基礎に仮定している一般相対性理論が破綻しているのか,という二つの可能性が考えられている。一般相対性理論は太陽系以下のスケールでは高い精度で実験的に検証されているが,100億光年を超えるような宇宙論的なスケールでも成り立つかどうかはわかっていなかった。

そこで,銀河のサーベイ観測によって多数の銀河までの距離を測定し,宇宙における銀河の3次元分布,いわゆる宇宙大規模構造を調べることで,宇宙の大規模構造に沿って個々の銀河がどのくらいの速度で運動しているかを調べると,大規模構造の成長速度がわかる。この速度が,一般相対性理論の予想とあっているかどうかを調べることで,一般相対性理論の検証ができる。

しかし,これまでの大規模構造成長速度の測定は,赤方偏移の値が1,共動距離にして約100億光年までの比較的近傍の宇宙に限られてきた。

アインシュタインはかつて,自らが信じる「静止した宇宙」を可能とするため,一般相対性理論の基礎方程式である「アインシュタイン方程式」に「宇宙定数」と呼ばれるものを追加した。のちにハッブルによって宇宙の膨張が発見され,宇宙定数の導入を「生涯最大の過ち」として撤回している。

しかし,現在の加速する膨張宇宙は,一般相対性理論にこの宇宙定数を加えることで説明できることが知られている。今回の観測結果は,この宇宙モデルにさらなる支持を与えるもの。

しかし,宇宙定数の物理的な起源は依然として謎に包まれている。また,今回の測定誤差の範囲内で,わずかに重力が一般相対性理論からずれている可能性もまだ否定できない。Kavli IPMUが主導して開発が進むすばる望遠鏡の新観測装置,PFS(2400本もの光ファイバーを用い多数の天体を可視光から近赤外線の領域で同時に分光観測出来る装置)はFastSoundよりもさらに大規模な銀河サーベイを可能にする。

FastSoundによって得られた今回の結果はPFSによる観測へと発展し,宇宙論研究で世界的な結果を出していく重要なステップと位置付けることができるとしている。

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