産総研ら,大面積微細回路印刷法を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,東京大学,山形大学,田中貴金属工業と共同で,紫外光照射でパターニングし,銀ナノ粒子を高濃度に含む銀ナノインクを表面コーティングするだけで,超高精細な銀配線パターンを製造できる画期的な印刷技術「スーパーナップ(SuPR-NaP:表面光反応性ナノメタル印刷)法」を開発した(ニュースリリース)。

プリンテッドエレクトロニクス技術は,フレキシブルで大面積のヒューマン・インターフェース・デバイスの普及を加速するためのキーテクノロジーとして期待されている。特に微細な電子回路に欠かせない高精細な金属配線の印刷を実現するため,インクの開発や各種の印刷法の開発が行なわれている。

金属配線用のインクとして,10~100㎚程度の粒径の銀ナノ粒子を高濃度に含んだ銀ナノインクが有望視されており,金属配線の印刷が試みられているが,銀ナノ粒子の保護層などの影響により,パターン精細度,導電性,基材との密着性,処理温度,製造スループットなどの点で,これまで実用的な性能は得られていなかった。

今回,基材表面上に形成した非晶性のフッ素系ポリマーの薄層上に,波長172㎚の紫外光でパターニングした。これにより,銀ナノ粒子を化学吸着する活性の高い表面(反応性表面)パターンの潜像を得た。次に,基材表面の全面を,銀ナノインクで濡らしたブレードによって掃引すると,反応性表面上にのみ銀ナノ粒子が選択的に吸着し,銀ナノ粒子同士の自己融着により銀配線パターンが得られた。

これにより,最も細いもので線幅0.8㎛の銀配線が得られた。これはスクリーン印刷法や通常のインクジェット印刷法の数十倍の精細度。また,インクの濃度を変えることにより,30~100㎚の範囲で厚さを制御できた。

得られた銀配線の厚みは線幅によらず一定で,配線周縁部が厚くなるコーヒーリング効果の影響は見られなかった。反応性表面上では,銀ナノ粒子同士の溶融により球状の形状が消失し,銀薄層を形成していることが分かった。

また銀配線は基材表面上に,5メガパスカル以上(大気圧の50倍以上の力)で強く固着していた。この銀配線はフレキシブル基板に影響を与えない温度(80℃以下)での熱処理により十分に高い導電性を示し,10万ジーメンス毎センチメートル(固体銀の約1/6)に達した。

今回用いた銀ナノインクは,アルキルアミンの保護層で被覆された銀ナノ粒子を重量比で40%~60%もの高濃度で含んでいる。山形大学の研究により,この銀ナノインクを乾燥させると,結合力の弱いアルキルアミンが徐々に脱離し,ほぼ常温でも銀ナノ粒子同士の凝集と融着が進むことが分かっている。このような特異な性質を示す銀ナノインクを用いることで,新原理の印刷技術「スーパーナップ法」が開発できた。

現在,スマートフォンなどのタッチパネルセンサーには,酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜が用いられている。しかし折り曲げると割れてしまうことや,真空環境下での製造が必要なことから,フレキシブル化や,低コスト化・省資源化には難点があった。このため,肉眼では見えない数㎛の線幅の金属配線を網状に形成して透明導電膜を製造する技術の開発が進められている。

今回開発した技術を用いて,可視光の回折限界に近い線幅(2㎛程度)の銀配線をプラスチック基板上に形成し,フレキシブルなタッチパネルセンサーを試作したところ,高い曲げ耐性を示し,ITOや銀ナノワイヤー,グラフェンなどを用いた他の透明導電膜と比べ,光透過率やシート抵抗も優れていた。常温・常圧下で,銀ナノインクの消費量も極小化した低環境負荷のプロセスにより,簡単・高速に製造できるようになった。

現在,田中貴金属により,今回の技術を用いたフレキシブルなタッチパネルセンサーの製品化が,2017年1月のサンプル出荷を目指して進められているという。

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