北海道大学は,本来絶縁体である酸化物を,電気が良く流れる磁石に室温で可逆的に変えることに成功した(ニュースリリース)。電気が流れる=情報「1」,流れない=情報「0」に加え,磁石にくっつく=情報「A」,くっつかない=情報「B」を記憶することで,USBメモリーなどの
情報記憶装置の記憶容量を大幅に向上させるための新しい技術として期待できるという。
USBメモリーに代表される現在の情報記憶装置は,シリコンなどの半導体の電気抵抗変化を利用して,電気が流れる状態を“1”,流れない状態を“0”として情報を記憶している。単位体積あたりの情報が記憶できる容量は,装置を小さくすればするほど増やせるが,装置の微細 化は限界に近づいているため,将来の大容量化に向けた新しい技術が求められている。
例えば,電気が「流れる=1」,「流れない=0」という記録に加えて,「磁石にくっつく=A」,「く っつかない=B」,という情報を同時に記憶することで,記憶容量を飛躍的に向上させられる。しかし,これまでに知られている金属や半導体材料では実現できなかった。
研究では,危険なアルカリ溶液の代わりに,アルカリを含む酸化物(タンタル酸ナトリウム) を用いた。まず,パルスレーザー堆積法を駆使して,酸素比率83%のコバルト酸ストロンチウム薄膜を作製し,その上に,10nmの孔が多数開いた,タンタル酸ナトリウム薄膜を積み重ね,さらにその上に酸化タングステン薄膜を被せた情報記憶装置を作製した。
作製した情報記憶装置の電極1-2間に電流を流すことにより,室温・空気中で,安全に,コバルト酸ストロンチウムに内包されている酸素比率を変化させ,電気を通さず(=0),磁石に もくっつかない(=B)絶縁体の状態から,電気を良く通し(=1),磁石にくっつく(=A) 状態に,可逆的に切替えることに成功した。
電極2(+)→1(-)に電流を流したところ,SrCoO2.5の中に酸素が取り込まれ,SrCoO3に変化することが分かった。電流を流す前は1Mオーム以上あった電気抵抗が,電流を流した後には1Kオームに減少し,電気を良く通すようになった。また,電流を流す前は磁石を近づけてもくっつかない状態だったが,電流を流した後には磁石にくっつく性質を示した。
逆に,電極1(+)→2(-)に電流を流して酸素比率を83%に減らすことで,元通り電気を通さず,磁石にくっつかない状態に戻った。この酸素の出し入れは繰り返し行なうことが可能で,100%可逆的に切り替えられることが分かった。
以上のように,電極2(+)→1(-)に電流を流すことで,酸素比率が100%の電気を良く通す磁石に,逆に,電極1(+)→2(-)に電流を流すことで元の絶縁体に,室温で,可逆的に切替えられることを発見した。なお,この切替えに必要な電圧は±3ボルト,電極1-2間に電流を流す時間は2~3秒だった。
将来的に,切替えに必要な電圧(現在3ボルト)を低電圧化するとともに,電極1-2間に電流を流す時間(現在2~3秒)を低減することで,低電圧・高速動作が可能で,真に実用的な大容量の情報記憶装置が実現できるとしている。
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