筑波大ら,植物が緑である理由を解明

九州大学と筑波大学の研究グループは,宇宙航空研究開発機構(JAXA),国立環境研究所(NIES),高層気象台 (JMA)と共同で,太陽からの光の色(直達日射)と空の色(散乱日射)に分けて,空全体の色を精密に観測する装置を開発し,長期測定を行なった(ニュースリリース)。

植物は光量子の一部をクロロフィル(Chl)によって吸収し,光合成を行なうことで地球の生態系を支えている。クロロフィルは葉緑素とも呼ばれているが,これは緑色の光量子の吸収率が低いためで,その理由については様々な説明がなされてきた。

これまでは野外環境での信頼できる太陽光や空の色がほとんど測定されていなかったため,平均的な太陽の光の色(入射日射スペクトル分布)を想定して研究が進められてきた。今回,JAXA-NIES-JMAの3機関による共同研究体制によって,実際の空の光の色や強さの精密な測定データが得られるようになった。

地表に差す太陽の光(全天日射)を,太陽の方向から地表に到達する直達日射と,大気中の雲等により散乱・反射されて地上に届く散乱日射に分けて,別々の分光放射計によってスペクトル分布を測定した。その結果,晴天時の直達日射のスペクトル分布と,散乱日射のスペクトル分布は大きく異なり,太陽からの光と空からの光は,色や強さが大きく異なっていることが明らかになった。

これらのスペクトル特性と,植物の光吸収特性との関係を解析した結果,葉の中で光を捉える葉緑体の光合成タンパク複合体は,晴天時の直達日射の最も強い波長域(550nm),すなわち緑色の光を避けるように精密に構成されており,葉緑体レベルの直達日射の吸光指数は散乱日射よりも1割以上小さくなっていた。

つまり,植物の緑は,直達日射の最も強い(エネルギー密度の高い)波長域の吸収を少なくして,過剰な熱吸収を避けるのに適していることが示唆された。この傾向は実際の植物の葉でも確認されたが,葉全体では柵状組織や海綿状組織の発達によって葉の内部で何度も反射・吸収が生じるため,緑色光も含めて全ての色の光が効果的に利用できていることが明らかになった。

日射の方向特性や波長特性に関する知見は,作物の葉の性質を調節する,収穫を増やす,あるいは光障害を減らすための技術開発への利用が期待できるという。

高精度分光日射観測は陸域生態系の光利用を研究する上で本質的に重要であり,既存のフィールド観測においてこれらの情報を付加することによって,生理生態学,フラックス観測,リモートセンシングなど,日射に係わる全ての研究分野に新しい観点からの基礎データを提供し,野外生物の光利用や遺伝形質分布などについて新しい研究分野を拓いていくための体制を構築していきたいとしている。

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