神奈川工科大学は,“どこから見ても正面に見える” 広告向けディスプレイ技術を開発した(ニュースリリース)。
近年,液晶ディスプレイの解像度は高解像度化し,4K(幅約4,000ピクセル)といった高解像度ディスプレイも一般化しつつある。ディスプレイの同時表示技術は,画面分割や画面切り替えといった古典的手法の他に,メガネなし立体映像表示に使用される3D液晶技術を応用した複数視点表示技術が提案されているが,通常の表示方式に対して解像度が半減し,暗くなる上に,視認位置が限られるといった弱点があった。
同大の研究グループは,2010年にプロジェクションマッピングを応用した多重化隠蔽映像技術「Scritter」,「ScritterH」,2014年5月に第4世代多重化不可視技術「ExPixel」(エクスピクセル) を発表した。ExPixelは,市販のパッシブ3Dディスプレイと互換のハードウェアで,偏光メガネ着脱により2チャンネルのコンテンツを自由に切り替えて視認できる技術。
聴覚障がい者向け字幕付与といった応用に有用であり,富士通ソーシアルサイエンスラボラトリとの共同で合理的配慮対応にむけた製品化試験が行なわれている。しかし,同技術を一般に広く利用するためには,メガネの着脱のわずらわしさや音声の切り替えが課題とされており,教室などより実際の使用環境での継続的な研究が必要な段階となっていた。
今回開発に成功した「ExField」技術は,一連の研究の最新の成果として発表されるもので,ExPixelよりもさらに,一般に広く普及している液晶ディスプレイに利用できる技術で,偏光メガネのような装着物を必要としない多重化技術。この技術は,レンチキュラー板と呼ばれるプラスチックレンズおよび,リアルタイム画像合成ソフトウェア(Unity)によって幅広い利用者が利用できる機材構成において実験を通して完成させた。
これには,
(1)視聴者の方向に対して異なる映像を表示可能
(2)視聴者の方向に対して,正しい矩形が保たれた表示が可能
(3)メガネ等の装着物やセンシング不要
(4)コンテンツ視聴方向に正しい指向性音響
(5)既存のディスプレイにユーザによって着脱可能
といった特徴がある。キャラクターやロゴマークのような,表示比率が正しく表示されるべき図画を視点に依存せず正しく表示可能な,新しい感覚のディスプレイ技術だとしている。
この技術の応用として,デジタルサイネージ,裸眼3D,映画館やライブイベント,図形にセンシティブなキャラクターやロゴ,交通標識,美術やミュージアム,リモートロボットの操作,多人数で同時体験可能なAR (拡張現実感)広告,印刷物への応用,といった用途を提案している。
既存のVRやARに利用されていたHMDやタブレットコンピューターといった装着物が不要になるため,インタラクティブ技術と組み合わせることでより広い応用が見込まれている。具体的にはスタジアム等の大型スクリーンへの利用で,利用者の着席位置に対して,視聴角度によって歪みがない画像や広告,応援するチームにあわせた情報や言語を表示できる。2020年に開催される東京オリンピックを背景に,3Dや4K/8Kといった高解像度ディスプレイに対して,強い推進力をもつ技術になるとしている。
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