千葉大,植物の光強度の変動への適応機構を解明

JST戦略的創造研究推進事業において,千葉大学は,光合成電子伝達に関わる2つのサイクリック経路(PGR5依存経路),NDH依存経路が,弱光と強光を繰り返す「変動する光環境」で光合成応答を最適化するのに重要な役割を果たすことを明らかにした(ニュースリリース)。

光合成の電子伝達経路には,リニア電子伝達経路とサイクリック電子伝達経路が存在する。リニア電子伝達経路はNADPHやATPを生産し,CO2固定をはじめとするさまざまな代謝経路にそれらを供給する。サイクリック電子伝達経路はPGR5というたんぱく質に依存する経路とNDH複合体に依存する経路が存在する。

モデル植物であるシロイヌナズナを中心に研究が行なわれ,直射日光のような強光などの環境ストレスの緩和にサイクリック電子伝達経路が重要だと論議されてきた。しかし,研究グループによって,NDH複合体に依存するサイクリック電子伝達経路は強光環境ではなく,むしろ弱光環境下で光合成電子伝達反応を最適化するのに重要であることが新たに分かった。

野外では,天候の影響や隣り合う植物同士が影になることで弱光と強光を繰り返すため,植物の受ける光強度は一日を通して常に変動している。野外のような変動光環境では,サイクリック電子伝達経路が光合成制御の中枢ともいえる役割を果たす可能性が出てきたが,その光合成の調節メカニズムはよく分かっていなかった。

研究グループは,主要作物であるイネを材料に,PGR5依存経路やNDH依存経路を欠損させた変異体を用いて,光合成の2つの電子伝達経路(リニア電子伝達経路とサイクリック電子伝達経路)とCO2の取り込み速度を同時解析した。

一定の光環境で栽培し,その栽培条件で2つの電子伝達速度とCO2固定速度を測定したところ,野生株と変異株の間で差は見られなかった。しかし,変動する光条件で光合成を解析したところ,PGR5依存経路やNDH依存経路が欠損することによって,サイクリック電子伝達経路が関わる光化学系Iの電子伝達速度が大きく減少し,その結果として,リニア電子伝達経路が関与する光化学系IIの電子伝達速度とCO2同化速度は共に減少することが分かった。

さらに,長期間,変動する光環境下で植物を栽培したところ,PGR5依存経路の欠損によって植物成長が49.7%減少し,また,NDH依存経路の欠損によって植物成長が31.7%減少することが明らかとなった。2つのサイクリック経路が共に働くことで,「変動する光環境ストレス」による光合成阻害を回避して身を守るという植物の調節メカニズムを世界で初めて解明した。

植物の光合成応答は私たちの呼吸に必要な酸素を生産するだけでなく,農作物や化石燃料,その他のバイオマスを生産するエネルギー変換反応であるため,地球上のあらゆる生命にとって非常に重要な反応。

今後,野外の変動する光環境下における光合成の調節メカニズムを全貌解明し,光合成効率の改善のみならず植物のバイオマス生産量確保の技術開発に貢献することで,地球レベルの大気中CO2濃度の削減や食料増産が期待されるとしている。

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