理化学研究所(理研)の研究グループは,X線散乱法などを用い,空気中に存在する水分子が,シルクの繊維状およびフィルム状における結晶構造と物性に与える影響を明らかにした(ニュースリリース)。
カイコ糸やクモ糸に代表されるシルクは,軽量性,強靭性,低細胞毒性などの特性があり,医療用縫合糸として既に実用化されている。また,再生医療などの分野への応用も検討されている。
その一方で,軽量で強靭だというシルク本来の特徴に対する注目度は低く,構造材料としての利用は進んでいなかった。その原因に,シルクが水の影響を受けやすいことが挙げられる。そのため,シルクの物性に水が与える影響を定量的に評価できれば,水の状態を制御したシルク由来材料の創製へつながると考えられる。
研究グループは,含水量が異なる3種類のシルク材料を調製し,熱分析と,放射光を用いたX線散乱法,さらに引張試験によって,水分子がシルク材料の結晶構造と物性に与える影響を定量的に評価した。
具体的には,水分子が「可塑剤」として機能することで,シルク分子の運動性を向上させ,いくつかの隣り合ったペプチド鎖が,水素結合により平行に連なることで形成する平面構造である,ベータシート結晶構造を誘起することが分かった。
従来法でシルクのベータシート結晶構造を誘起させるためには,メタノールをはじめとする有機溶媒が必要だった。それに比べて,水分子がシルクの結晶構造を誘起するという今回の発見は,グリーンケミストリーに貢献するもの。
さらに,シルクの熱的安定性について,繊維状の方がフィルム状よりも向上することを示し,シルクの形状を制御することで熱的安定性を制御できることを示した。
シルクは石油材料の代替品として注目されているが,この研究で水分子とシルクの結晶化と物性の関係を定量的に評価したことで,シルクの構造材料としての利用に大きく寄与すると期待できるとしている。
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