東京工業大学と富士通研究所は,無線装置の大容量化を目指して,72から100GHzと広い周波数範囲にわたり,高速に損失が少なく信号処理できるCMOS無線送受信チップとそのモジュール化技術を開発した(ニュースリリース)。
スマートフォンの普及に伴い無線基地局とコアネットワーク,もしくは基地局間を結ぶ基幹ネットワークの大容量化が加速している。従来,数キロメートルの広範囲をカバーするマクロセル方式が中心だったが,近年では,数百メートル以内の小さいエリアをカバーする基地局を多数設置するスモールセル方式を組み合わせることによって通信量の増大に対応している。
また,現在,基地局間の通信回線は,大容量なデータを伝送できる光ファイバーが主流。建物が密集している都心部や,山間や河川などで隔たれた地域では新規に光ファイバーを敷設することが困難で,屋外に簡便に設置できる大容量無線装置の実現が期待されている。
大容量データを無線伝送するためには,広い周波数範囲を利用することが必要。そのためには,競合する無線アプリケーションが少なく広帯域なミリ波帯(30から300GHz)の利用が適している。
しかし,ミリ波帯は,周波数が非常に高く,CMOS集積回路の動作限界に近いところで設計する必要があるため設計の難易度が高く,広帯域な信号を,高品質にミリ波帯へ周波数を変復調する送受信回路や,回路基板とアンテナを接続するインターフェース回路を低損失に実現することが困難だった。
今回,新たにデータ信号を2つに分けて,それぞれを異なる周波数帯へ変換してから混合することで,送受信回路を広帯域化・低損失化する技術を開発した。この技術により,20GHz幅の超広帯域信号においても,低雑音で,入力と出力の電力比が一定となる範囲が従来の10GHz幅と同等となる変復調が可能になった。
また,ミリ波帯に周波数変換された信号を電波として送受信するための増幅器も合わせて開発した。周波数によって部分的に増幅率が低下してしまう信号成分に対し,出力信号の振幅を入力側へフィードバックすることで増幅率を安定化させる回路技術を用いて設計することにより,72から100GHzの超広帯域の増幅器を実現した。
半導体チップ上でミリ波帯に周波数変換された信号は,プリント基板上の信号線路を伝搬してアンテナへ供給される。アンテナは導波管(金属状の筒)で形成されているため,プリント基板と導波管の間を超広帯域,かつ低損失に接続することが必要。プリント基板上の配線パターンを工夫することで,超広帯域向けにインピーダンス整合させた導波管と基板の間のインターフェースを開発し,所望の周波数範囲で大幅に損失を低減した。
室内において,10cmの距離を隔てて2台のモジュールを対向させてデータ伝送試験を実施しました結果,導波管と基板の間の損失について10%以下を実現し,世界最高速となる56Gb/sのデータ伝送に成功した。
今回開発した技術に加えて,信号を増幅して伝搬距離を伸ばすための高出力増幅器技術や,超広帯域を処理するベースバンド回路技術を組み合わせることで,屋外設置可能な無線装置の大容量化が可能になる。
これにより,新規に光ファイバーを敷設することが困難な都市部や河川を挟んだ山間部などへも無線による大容量な基地局ネットワークを展開できるようになり,快適な通信環境を提供するとしている。
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