東工大ら,太陽光発電の需給バランスを維持する技術を開発

JST戦略的創造研究推進事業において,東京工業大学,東京海洋大学,仏オルレアン大学,東京理科大学,エネルギー総合工学研究所,産業技術総合研究所らは共同で,天候の変化などによって発電量が大きく変動する太陽光発電を大量導入する際に,最新の予測技術である信頼度付区間予測を用いて,電力系統全体の需給をバランスよく維持できる基礎制御技術(電力系統需給制御技術)を開発した(ニュースリリース)。

この研究では,太陽光発電量の信頼度付区間予測を活用した電力系統需給制御の基礎技術を開発した。この技術は,太陽光発電設備の大規模な導入を考えた新世代の電力系統において,需給バランスを効率的に安定させるための制御技術として役立つことが期待されるという。

研究の成果は以下の3点にまとめられる。

1.太陽光発電量の信頼度付区間予測に基づく電力系統運用計画問題の定式化
前日の太陽光発電予測に基づいて火力発電機と蓄電池の運用計画を立てる問題を,需給バランスを維持しながら火力発電機の燃料コストと充放電に伴う蓄電池の劣化コストを最小化する最適化問題として定式化した。

火力発電量や蓄電池充放電量の調整可能範囲が得られた最適運用計画の上下限軌道内に収まるようにすることにより,太陽光発電量の予測誤差が生じたとしても経済コストが最小となる最適な電力系統運用を行うことが可能となる。

2.最適運用計画の理論的な変動解析に基づく数値解法の開発
1.の最適運用計画の上下限軌道を効率的に求める数値解法の開発を行なった。一般に,多次元の変動パラメーターを含む最適化問題の解は,そのパラメーターに関する連続的な多変数関数となる。このとき,いくつかの太陽光発電予測量パターン(時系列)を無作為に選定して最適運用計画を求めるだけでは,その上下限軌道を妥当な精度で求めることが難しい点が課題となっていた。

これに対して,最適条件を表すKarush-Kuhn-Tuker条件に基づいた最適解のパラメーター依存性について,区間解析を駆使し<どの予測量パターンにおいて最適運用計画が上下限に達するのかを理論的に証明することに成功した。これらの解析に基づき,最適運用計画の上下限軌道を効率的かつ厳密に求める手法を世界に先駆けて開発した。

3.実データを用いた数値シミュレーションによる最適運用計画の考察
開発された手法を用いて,太陽光発電量や需要電力などの観測データを利用した数値解析を行なった。その結果,“需給バランスを頑健に維持するためには,予測誤差がない時刻であっても火力発電機や蓄電池の調整可能範囲の確保が必要となり得る”ということを示した。また,調整用電源の過小な見積もりは,太陽光発電量の予測誤差による需給アンバランスを引き起こすため,停電などの重大な事故が生じる原因となることがわかった。

研究では,太陽光発電量の信頼度付区間予測という最新の予測手法を活用した電力系統需給制御の基礎技術を開発した。信頼度付区間予測は,研究グループを含む世界中の研究者によって開発が進められており,再生可能エネルギーの発電予測において主流となることが期待される最新の予測手法。

今後は火力発電機の起動停止コストや過剰な太陽光発電量の抑制などを含めた,より複雑な状況下での電力系統への適用を検討し,太陽光発電が大量に導入される将来に向けて,より精度の高い電力系統需給制御技術の開発を目指すとしている。

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