理化学研究所(理研),米ブルックヘブン国立研究所,米コロンビア大学,米コネチカット大学,英エジンバラ大学,英プリマス大学,英サウサンプトン大学らの国際共同研究グループは,原子より小さい極微スケールで起こるK中間子崩壊における「CP対称性の破れ」のスーパーコンピュータを用いた計算に成功した(ニュースリリース)。
今回の理論計算は,実験結果との比較をするにあたって最終的な結論を出すための精度がまだ不足しているが,長年の課題であったK中間子崩壊過程におけるCP対称性の破れの理論計算が可能であることを証明したもの。
約138億年前,ビッグバンにおいて同数の粒子と反粒子が対生成されたと考えられている。しかし現在の宇宙には,反物質から成る星や銀河は観測されていない。つまり反物質は消滅したことになる。すべての物理法則が物質と反物質の入れ替え(CP変換)で不変(CP対称)だとすると,宇宙の進化を説明できないため,CP対称性は破られる必要がある。
2000年までに「中性K中間子が直接的にCP対称性を破り,π中間子に崩壊する現象」が観測された。この現象は100万回のK中間子の崩壊につき数回しか起こらないものであり,明らかにされていない物理法則の影響が最も見えやすい現象の1つだと期待されている。従って,この実験結果と小林・益川理論に基づく理論計算の比較が長らく待たれていた。
自然界では,中性K中間子の崩壊で生じる2つのπ中間子は,互いに反対方向の運動量を持つが,計算機上で崩壊するπ中間子に運動量を与える方法がなく,正確な計算が不可能だった。今回,国際共同研究グループは計算機上に表した空間格子の境界条件に工夫を加えることにより,K中間子が自然界と同じ運動量を持ったπ中間子へ崩壊する状況を実現した。
そして,スーパーコンピュータ「IBM Blue Gene/Q」で大規模格子量子色力学計算を行ない,小林・益川理論と素粒子の標準理論から導き出されるCP対称性の破れのサイズを初めて計算で示し,実験結果との比較が可能であることを示した。
国際共同研究グループでは近い将来,より一層計算精度を上げることを目指しており,それが現在の素粒子物理の標準理論を超えた未知の物理法則の発見につながることが期待できるとしている。
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