豊橋技科大,超音波を用いる音響インピーダンス顕微鏡を開発

豊橋技術科学大学と本多電子は,高周波の超音波を用いて,生きた細胞の中の状態変化を観察する音響インピーダンス顕微鏡を開発した(ニュースリリース)。

超音波観察装置は,生体に影響を与えずに組織の状態を観察できることから,胎児の観察から臓器の診断まで多くの医療技術に用いられている。研究グループは医療用に用いられている超音波の400倍以上の高周波超音波を用い,細胞の中の状態を「音」で可視化する超音波顕微鏡を開発した。

非常に高い音を使うが,水の中にいる細胞に悪い影響を及ぼすことはないという。超音波顕微鏡を用いることで,細胞が生きた状態のまま,なんら色素染色せずに細胞のなかの構造タンパク質の変化を観察することができるとしている。

細胞の中には,かたちを整えたり,細胞増殖をコントロールしている線維状のたんぱく質=細胞骨格が分布している。超音波顕微鏡は,細胞の中の物質密度や粘弾性を利用して画像化するため,細胞骨格を観察するのに優れたツールとなる。一方がん細胞は,増殖能が過剰になっているため正常な細胞と細胞骨格の安定性が異なっていることが知られている。

この性質を利用して,混在した正常細胞−がん細胞集団から,がん細胞を識別する技術を開発した。超音波でみた培養正常細胞(glia細胞)と培養がん細胞(glioma細胞)は,いずれも細胞核と細胞内に高い音響インピーダンスを示すことが観察できる。

正常細胞−がん細胞集団に,細胞骨格を不安定化する試薬を投与すると,短時間の間でがん細胞だけが不安定化する様子が観察された(glioma)。 がんの診断,および手術中にがんの浸潤範囲を確定するためには生きた組織を採取して検査するバイオプシーが必要。現在は組織を固定,染色して熟練の病理医が診断を下している。

開発した技術は,細胞が生きたまま,組織に触れること無く状態変化を観察できるため,バイオプシー試料の病理検査に大きく貢献できると考えられるという。現在,カナダ・ウィンザー大学とがんの病理診断システムの開発についての共同研究をすすめている。

さらに,正常細胞に蛍光たんぱく質を発現する細胞を用いることで,各種の抗がん剤が正常細胞とがん細胞のどちらにどの程度影響したか追跡することができる。今回の試薬を2時間投与した結果,ダメージの少なかった細胞はすべて蛍光たんぱくを発現した正常細胞だった。

超音波顕微鏡は,光を用いた従来の顕微鏡とは異なる物性情報を得ることができる。研究グループは現在,電子工学・細胞工学の技術を医療の現場に応用するツールとなるように,実用化へ向かって研究をすすめている。

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