大阪市大ら,光受容体の進化の一端を解明

大阪市立大学,理化学研究所,国立遺伝学研究所,奈良女子大学,京都大学 の研究グループは,魚類の松果体にある「光の波長(色)識別」と「生体リズムホルモンであるメラトニン分泌の光調節」にかかわる異なる2つの光受容タンパク質が,約3億年前に魚類の進化過程で起きた『ゲノムの二倍化』の後に分化した「双子」の関係であることを発見した(プレスリリース)。

動物の光受容は,視覚に関するものと,そうでないのもの=非視覚に分類される。今回の発見は,非視覚の光受容において,もっとも重要な分子である光受容タンパク質が遺伝子重複によって増え,進化の過程で異なる機能を獲得したことを初めて明らかにしたもの。ヒトを含めて動物が非視覚の光受容に関わる光受容タンパク質をたくさん持っている謎を解くカギとなる。

ヒトを含め動物は,複数の光受容タンパク質を持っている。ヒトの視覚に関わる光受容タンパク質の進化については,今から3000万年前に,赤色感受性の光受容タンパク質の遺伝子が遺伝子重複により増加した後,遺伝子変異により緑色感受性光受容タンパク質の遺伝子となったことが分かっている。

一方,非視覚に関わる光受容タンパク質については,その遺伝子がどのような機能と関わっているのか,ほとんど分かっていなかった。

そこで研究グループは,魚類などの下等脊椎動物の松果体が,メラトニン分泌の光制御に加えて光の明暗や光の色を識別していることに注目し,モデル生物である小型魚のゼブラフィッシュにおいて,松果体のどの光受容タンパク質がメラトニン分泌の光制御に関係しているのかを調べた。

その結果,松果体に特異的に存在する新規光受容タンパク質の1つが,メラトニン分泌の光制御を担っていることを発見した。この光受容タンパク質は,既に研究グループが同定していた松果体にある光の色識別に関わる光受容タンパク質遺伝子(パラピノプシン1,PP1)と「双子」の関係にあったため,PP2と名付けた。

PP1とPP2について,さまざまな魚類のゲノムを調べたところ,ガーという古代魚は1つのパラピノプシンしか持たないことがわかり,遺伝子の並びなどの解析と合わせて,これら2つの遺伝子はおよそ3億年前に魚類で起きた『ゲノムの二倍化』により「双子」として誕生したことが分かった。

さらに,それらの遺伝子からできるタンパク質を解析したところ,PP1が紫外(UV)光感受性であるのに対して,PP2は青色感受性であることを見出した。すなわち,もともと全く同じだった双子の光受容タンパク質の1つは,進化の過程で異なる色の光を受容できるように変化し,それぞれが色識別とメラトニン分泌の光制御という全く異なる生理機能に関わるようになったことが明らかになった。

ヒトは9つの光受容タンパク質の遺伝子を持ち,そのうち5つは非視覚の機能に働いていると推測されている。進化の過程で遺伝子の数が増えることにより多様化してきた非視覚に関わる光受容タンパク質は,異なる色の光をキャッチするなど,それぞれ異なる分子特性を持っているが,それらの違いがどのような機能の違いを生んでいるのかは未だによく分かっていない。

今回の発見は,光受容タンパク質がキャッチする光の色がUV光から青色光に変わったことが,メラトニン分泌の光制御という機能にとって重要であることを示しており,非視覚の光受容タンパク質の分子の性質と機能との関連を示す初めての例だとしている。

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