東京工業大学,東京大学,お茶の水女子大学らは共同で,半金属のビスマスを薄膜にするとその電気的な性質を半導体に変えられることを実証した(ニュースリリース)。
高速に動作するデバイスの作製には,用いる物質中の電子の速度が速い(移動度が大きい)ことが必要。最近,通常の電子と異なったエネルギーと運動量の分散関係を持つディラック電子が大きな移動度を持つ電子として注目されている。
例えば,ディラック電子を持つ物質として知られている炭素一層からなるグラフェンの電子は,シリコンのおよそ10倍の15,000cm2/Vsの移動度を持つ。ビスマスは固体中でディラック電子が存在することが分かった最初の物質で,1960年代から研究されてきた。
デバイス動作のための重要な条件の一つは,その電気的性質がバンドギャップを有する半導体であることである。しかし,上記のグラフェンもビスマスも半金属でバンドギャップがないために,何らかの方法で半導体にしなければならない。
かつて,ビスマスを30nm程度の厚さの薄膜にし,量子サイズ効果を利用することで,半導体に変えられる(半金属半導体転移)という予想があった。しかし,今日まで実際にビスマス薄膜で半金属半導体転移が起きているという明確な実験証拠はなかった。
今回,研究グループは,高品質のビスマス薄膜を作成し,その電気的特性を分子科学研究所のシンクロトロン放射光施設UVSORで測定した。UVSORの偏光可変の低エネルギー角度分光電子分光装置を用いることにより,これまで報告例がほとんどなかったビスマス薄膜の内部の電子状態を高精度で観測することに成功した。
その結果,当初の理論よりも膜厚が厚い,70nmの厚さの薄膜でエネルギーギャップが開き,半導体になっていることを実証した。一方,10nm以下のビスマス超薄膜は,理論の予想と反してエネルギーギャップがない半金属であることも分かった。これは,厚さ10nm以下では表面・界面の効果が重要であり,これを考慮した新たな理論が必要なことを示している。
研究グループは今回の成果について,今後,ビスマス内部の高移動度のディラック電子を利用した高速デバイスの開発,さらにビスマスの表面や界面に存在する電子を利用した極薄ナノデバイス開発という応用研究へと進展することが期待できるとしている。
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