東京工業大学の研究グループは,ダイヤモンド中の空孔(V)とゲルマニウム(Ge)からなる新しいカラーセンターの形成に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
ダイヤモンド中のカラーセンターは,ホスト材料であるダイヤモンドの高い生体適合性,退色しない安定した発光,室温での単一光子放出などの特長を有することから,生細胞イメージング用のバイオマーカー,量子暗号通信,高感度センサーなどの応用に向けて世界中で研究が活発に進められている。
これらの応用には強く発光し,かつ形成を制御しやすいカラーセンターが求められている。様々な応用を実現するためには,アンサンブル状態および単一(ひとつのカラーセンターが孤立している状態)の両方を形成することが重要。発光が強いアンサンブルカラーセンターはバイオマーカーやセンサー応用に適しており,単一光子源として機能する単一カラーセンターは量子暗号通信への応用が期待できる。
これまでに,ダイヤモンド中のカラーセンターにおいて窒素(N)‐空孔のNVセンターとシリコン(Si)‐空孔のSiVセンターだけが単一状態を示し,かつ再現性良く形成されていた。しかし,NVセンターは主要な発光波長であるゼロフォノンライン(ZPL)での強度が小さく,SiVセンターは合成装置中の不純物から取り込まれやすく形成が制御しづらいという問題があった。
研究グループは,ダイヤモンド中にゲルマニウムを導入することにより,ゲルマニウムと空孔からなるGeVセンターを形成した。GeVセンターは,外部からの光励起により波長602nmで強い発光を示し,高い再現性で形成できることを確認した。アンサンブル状態だけでなく,単一の状態でも安定したカラーセンターとして機能させることに成功した。
2次自己相関関数測定から,単一GeVセンターが単一光子源として働くことを証明し,飽和発光強度として170kcpsという高い値が得られた。励起波長の最適化により,GeVセンターの発光強度をさらに上昇させることができ,再現性良く形成できるダイヤモンド中のカラーセンターのうちで最も高輝度な構造となる可能性がある。第一原理計算により,ゲルマニウム原子は炭素原子が存在する格子位置ではなく,格子と格子の間に存在していることを明らかにした。
イオン注入法を用いると,ダイヤモンド自体にダメージを与えてしまい,GeVセンターの発光波長がばらついてしまうことが観測された。一方,マイクロ波プラズマ化学堆積法を用いると,より鋭く発光波長の均一性に優れたアンサンブルGeVセンターを作り出すことにも成功した。SiVセンターはマイクロ波プラズマ化学堆積装置中の真空チャンバ-(容器)部品などから容易にダイヤモンド中に取り込まれてしまうが,GeVセンターはより制御しやすく,拡張性が高い発光源として利用される可能性を有している。
ダイヤモンド中のGeVセンターは炭素とゲルマニウムからなる新しい原子レベルサイズの機能性構造であり,ダイヤモンドの特長である高い生体適合性を有する。さらに,発光強度が大きいことから,ナノダイヤモンド中へのGeVセンターの形成により,細胞内で退色しない安定な高輝度マーカーとして機能し,生体機能の解明や細胞レベルでの新しい診断技術につながるとしている。さらに,均一な発光波長の単一GeVカラーセンターによって,量子暗号通信用光源への応用も期待される。
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