東北大,高温超伝導材の結晶軸を揃えることに成功

東北大学の研究グループは,希土類系高温超伝導薄膜線材(REBa2Cu3Oy線材,REは希土類元素及びイットリウム)の2軸配向組織を,結晶軸を揃えた3軸配向組織とすることで,超伝導転移温度に対する各結晶軸変形の効果を,広い範囲で測定することに成功した。その結果,ab面が,室温で0.385nm近傍の大きさを持つ正方格子の時に超伝導転移温度が最大となることを示すことができた(ニュースリリース)。

現在市販されている希土類系高温超伝導線材は,結晶軸が揃った薄膜形状をしており,テープ面には結晶のa軸とb軸が混ざった2軸配向組織を有していることが知られている。これまでは2つの結晶軸が混ざった状態であったため,結晶のa軸とb軸それぞれが変形した場合の超伝導特性の変化は,複雑で理解が進んでいなかった。

結晶軸が完全に揃った結晶である単結晶を用いた研究では,結晶を大きく変形させると試料が壊れてしまうため,結晶軸変形の影響は,a軸とb軸で反対の挙動を示すことが分かっているのみで,圧縮から引っ張りまでの広範囲における詳細な振る舞いは未解明だった。

今回,応力下で熱処理を行なう簡便な方法で,市販品である希土類系高温超伝導薄膜線材の完全配向に成功したことで,広範囲の結晶軸変形の影響を調べることが可能となった。薄膜線材の場合には,延性のある金属基板上に成膜されているため,試料の損傷なく大きな変形が可能となる。

この結果,a軸では引っ張り,b軸では圧縮の変形を加えることで,実用線材の超伝導転移温度が向上することに成功した。a軸とb軸の格子変形の効果が逆の振る舞いが見られることは,単結晶における狭い変形領域で報告されていたが,加えて両者ともべき乗の振る舞いをすることが新たに分かった。

この結果を室温の格子定数(結晶の各軸の長さ)に置き換えてみると,結晶の大きさが0.385 nm付近で超伝導転移温度が最大となることが予想される。またa軸とb軸の比をとると,どちらの軸も1で最大となる傾向を示し,結晶のab面が正方形のときに最も高い超伝導転移温度となることも予測することができた。

研究グループはこれらの結果について,希土類系高温超伝導における超伝導現象と格子の関係を明確にし,高温超伝導材料の発現機構解明に繋がるものだとしている。

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