東芝は,IoT(Internet of Things)機器のセキュリティ技術「physical unclonable function(PUF)」において,トランジスタの絶縁膜欠陥に起因した「ランダムテレグラフノイズ(RTN)」を利用した新技術を開発した(ニュースリリース)。
PUFは,電子回路を構成する個々のデバイスのばらつきを,チップ固有のID「チップ指紋」として利用することで,暗号・認証を実現するセキュリティ技術。複製困難性が高く,低コストで実現できるため,注目を集めている。
従来,PUFにはメモリ型と遅延型があった。メモリ型PUFは,電源を入れた直後のメモリセルの初期状態の個体差を利用するもの。遅延型PUFは,回路内の配線遅延の差を利用している。これらの方式は,主にトランジスタの電源ON/OFFを決定する閾値電圧のばらつきをチップ固有のIDとして利用する。
しかし,閾値電圧のばらつきは,トランジスタが劣化に伴い変化するため,初期に設定したIDが識別できなくなることが懸念されている。PUFの信頼性を高めるためには,初期に設定したIDの変化を低減することが求められている。
今回同社は,RTNと呼ばれる現象に注目した。RTNは,CMOSイメージセンサの画質劣化,トランジスタやメモリの情報反転を引き起こす原因となるので,より低減しようとする技術的努力がなされているが,完全に消滅させることは難しいとされている。
このRTNを詳細に評価・解析する中で,RTNの複製困難性,固有性や電気ストレスに対する安定性に着目し,世界で初めてRTNをPUFに応用した。また,短時間でRTNを検出するアルゴリズムを新たに考案し,100万回以上利用しても「チップ指紋」を識別できることを確認した。
同社は今後,この技術の早期実用化に向けて,さらに信頼性と性能を高めたPUFセキュリティシステムの研究開発に取り組むとしている。
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