京大ら,脳の映像酔い特有の状態を発見

京都大学とキヤノン,明治国際医療大学らの研究グループは,機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging: fMRI)を使って,映像に酔ってしまうと,映像の動きを検出する脳部位の活動が右脳と左脳のあいだで互いに乖離する現象を発見した(ニュースリリース)。

映像酔いが発生するしくみは明らかになっていないが,有力な仮説として,眼球運動説と感覚矛盾説がある。眼球運動説は,視運動性眼振と呼ばれる反射性の眼球運動が原因とされている。映像で誘発された視運動性眼振が眼外筋の異常な動きを引き起こし,その動きによって生じた神経信号が,前庭神経を介し自律神経系を司る延髄を刺激してその働きを乱す。結果的に,吐き気のような症状があらわれると考えられている。

一方,感覚矛盾説は,身体の動きを監視する三半規管や耳石といった前庭器官が脳に伝える情報と,眼から入ってくる動きの情報とが矛盾するために,それらを脳のなかでうまく統合できないことが原因になるというもの。感覚矛盾説と一致するように,映像酔いの前兆として,止まっているはずの自分があたかも映像の中の空間で動いているような錯覚(ベクショ
ン)を感じることがある。

視運動性眼振とベクションには,映像の動きを検出する脳部位であるMT+野(Middle Temporal complex)が関与していることがわかっている。両者とも右脳の優位性を示す報告があり,関与の度合いは右脳と左脳とのあいだで大きく異なると推定される。また,MT+野は,前庭感覚を司る大脳の頭頂島前庭皮質とつながっており,密に連係している。映像酔いは,MT+野の脳活動の左右差が一端となり,頭頂島前庭皮質をはじめ前庭感覚に関わる脳の領域を刺激することによって生じる可能性がある。しかし,映像酔いと視覚皮質活動の左右差との関連性に着目し,この可能性を検討した研究はこれまでなかった。

研究グループは,“映像に酔うと視覚野MT+の活動が左右間でお互いに乖離する”,という仮説を検証するために,映像酔いを起こしやすい動画(酔動画)と起こしにくい動画(非酔動画)で脳活動のリズムが左右でどのくらい違うのかを,fMRIで調べた。その結果,動画に酔った人は酔動画によって脳活動が左右で乖離するという仮説を支持する結果を得られた。一方,健常群ではそのような相関の低下は認められなかった。

今回発見された映像酔いにともなうMT+野の変調現象は,映像酔いの神経メカニズムを理解する糸口になるもの。MT+野は映像の動きの検出だけでなく,映像酔いの前兆である眼や身体の動きの制御・検出にも重要な脳部位。他の視覚野ではなく,動きを司るMT+野だけに変調が見られたという事実は,MT+野が映像酔い解明の鍵を握る脳部位であることを強く示唆している。

視覚野MT+と脳内の他の領域とが映像酔いを生じる過程でどのように関わり合っているのか,研究グループは今後の研究によって明らかにされていくことで,映像酔いだけでなく,動揺病が生じるしくみの理解が推進されていくとしている。

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