東北大学,東京大学,英ダーラム大学,スロベニア・リュブリアナ大学,ハンガリー科学アカデミーの研究グループは,分子からなる物質の中で最高の転移温度を有する一群のフラーレン(C60)超伝導体の電子状態を解明することによって,超伝導転移温度(Tc)が最大になる条件を明らかにし,性能指数の高い新規超伝導開発につながる指針を得た(ニュースリリース)。
超伝導体は,できるだけ高い温度で超伝導になる物質の開発が急務とされている。多くの超伝導体は原子を構成単位とする物質群だが,分子を構成単位とする超伝導体も知られている。その中でも,研究グループは炭素原子60個からなる分子「フラーレン」を構成単位とする物質が分子性物質の中で最高の転移温度38Kを示すことを2008年に発見した。
その後,この超伝導が磁性を持った絶縁体相に隣接していること,結晶形によらず圧力によって超伝導転移温度が制御されることを明らかにした。さらに,隣接する絶縁体状態では,C60分子がヤーン-テラー効果と呼ばれるひずみを起こしていることも明らかにしてきた。
しかし,これらの物性はすべて高圧下のみで観測されるため,詳細な電子状態の解明は未解決のまま残されていた。今回の国際共同研究では,Cs3-xRbxC60という組成の化合物の合成に初めて成功し,磁性絶縁体から超伝導への転換を常圧の状態で実現することに成功した。
その結果,詳細な物性研究が初めて可能になり,38Kにおよぶ高温の転移温度を有する超伝導体においては,分子の特性と固体の特性が均衡しているため,通常の金属状態とは異なり,ヤーン-テラー金属と呼ばれる特殊な状態を形成していることが明らかになった。
このバランスを最適化することによって最高の転移温度が実現しているという知見は,新しい分子性超伝導の開発をさらに後押しするものだとしている。
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