東工大ら,メタマテリアルにより光変調器に透磁率の概念を導入

東京工業大学,理化学研究所,岡山大学の共同研究グループは,インジウム・リン(InP)系光通信プラットフォームに “透磁率” の概念を導入することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

電磁波(光)にとって,誘電率と透磁率の2つの概念は重要だが,「光通信で用いるような高周波の光にとっては,すべての物質の比透磁率は1である」という事実により,一般的に透磁率は光通信においてパラメータとして用いられていない。しかし,光通信で用いられている各種デバイスは,主にInP系の材料でできているが,このプラットフォームにおいて,「透磁率一定」の制約を超えることは大きな意味を持つ。

まず,誘電率と透磁率,2つのパラメータを同時に制御することで,本来,屈折率の可変幅が狭いInP系デバイス内において,極めて大きい屈折率変化を持たせることが可能となる。これは,既存デバイスの大幅な小型化・高性能化に繋がる。また,誘電率と透磁率を適当な値に設定することで,負の屈折率に代表されるような従来技術の枠組みを超えた性質をInP系プラットフォーム上に作り出せる。この応用として,光メモリや光無線アンテナなどが考えられる。

研究グループは,InP系マッハツェンダー光変調器をベースとして,デバイス内部に特殊なメタマテリアルを実装。電圧印加に伴う透磁率の変化を利用して,透過光の強度を変調することに成功し,デバイスの大幅な小型化が可能であることを示した。キーとなる主な成果は下記のトライゲート(Tri-gate)メタマテリアルとメタマテリアル集積型マッハツェンダー変調器の2つ。

①トライゲート(Tri-gate)メタマテリアル:InP 系化合物半導体上に浅い溝を掘り,その内部にナノスケールの金属構造を作りこむことで,電圧制御が可能な特殊なメタマテリアルの開発に成功した。この構造では,上部から電圧を印加することで,半導体内のキャリア密度を変化させることができ,それに伴って金属微細構造の応答(=メタマテリアルの特性)に変化が生じる(キャリア発現の原理は3次元トランジスタと同一)。これにより,電圧印加の有無によって,透磁率の値を制御できることになる。

②メタマテリアル集積型マッハツェンダー変調器:トライゲートメタマテリアルの技術を光通信デバイスへ実装することで,「透磁率制御によるメタマテリアル装荷型変調器」を実現した。この素子は,マッハツェンダー干渉器の各アームにトライゲートメタマテリアルが一列に埋め込まれた構造となっており,素子上部から電圧をかけ,アーム部の透磁率を変化させることで強度変調を行なう。

透磁率を制御することで,本来,屈折率の可変幅が狭いInP系デバイス内において大きな屈折率変化を持たせることが可能となり,200μmのデバイス長において約7.0dBの変調特性を得ることに成功した。誘電率と透磁率を両方使うことにより,さらなる高性能化を図ることができ,将来は,実用化されている既存デバイスと同じ性能を維持しながらサイズを1/100程度まで小型化できると予想する。

現在のメタマテリアル研究の大部分は,物性物理学,あるいは基礎工学の領域で行なわれている。特に2010年ころまでは,「メタマテリアルの材料としての固有特性」に研究の重きが置かれていたが,現在はその多くがデバイス応用へ向かっている。実際,米国やカナダではベンチャー企業も立ち上がり,実用化へ向けて動き出している。

今回の研究はレーザ・変調器をはじめとするInP系光通信プラットフォームで透磁率の概念を世界で初めて導入したことに特徴がある。光変調器に限らず,InP系光デバイスに広く利用できるため,さまざまなデバイスの小型化・高性能化・特殊動作化に寄与する
ことが期待されるとしている。

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