東大ら,磁気秩序相の背後に潜む電荷の不安定性による新奇な量子相転移を発見

東京大学,名古屋工業大学,高輝度光科学研究センター,広島大学,九州工業大学,高知大学は共同で,希土類金属間化合物YbNi3Ga9(Yb:イッテルビウム,Ni:ニッケル,Ga:ガリウム)について,圧力誘起磁気秩序(圧力を加えることによって誘起される磁気秩序)が出現する圧力付近で,圧力や磁場などを変化させたときに元素イオンの価数が連続的に変化する,価数クロスオーバーと価数揺らぎの量子臨界現象が関係した磁化の急激な増大を観測することに成功した(ニュースリリース)。

電子がもつスピンや電荷(価数)の自由度による秩序状態は温度のみならず圧力や磁場を加えることによっても制御することができる。その秩序状態が絶対零度付近まで抑制された場合,量子揺らぎの発達により量子臨界現象とよばれる異常な金属状態や非従来型超伝導などの現象が観測されることがある。

研究グループは今回,10万気圧級の高圧力を用いることでYbNi3Ga9において圧力誘起磁気秩序を発見し,さらにその臨界圧力に近づくとともにイッテルビウムの価数が3価状態へと連続的に変化していくことをX線吸収分光測定によって明らかにした。

これらの結果は,良質な試料と,独自に開発した圧力装置および大型放射光施設SPring-8 BL39XUの高輝度X線と高精度計測技術を利用することで初めて実現した。

スピン自由度の量子臨界現象に関する実験および理論的研究は成熟期を迎えつつあるのに対し,価数の自由度による量子揺らぎの本質については未解明な点が多く残されている。

今回の研究の成果はスピン揺らぎの理論では理解できなかった非従来型の量子臨界現象において価数の不安定性が果たす重要性を示すものであり,新しい量子臨界現象の起源を解明する上で重要な指針を与えることが期待されるとしている。

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