日立製作所は,最先端研究開発支援プログラム「原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡の開発とその応用」において,1.2MVの加速電圧を備えた「原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡」を開発し,世界最高の分解能(点分解能)となる43pmを達成した(ニュースリリース)。
光学顕微鏡では凸レンズと凹レンズを組み合わせて球面収差を補正するが,電子レンズを用いる電子顕微鏡では,従来,凹レンズの機能を出すことができなかったため,球面収差により分解能の向上が阻まれてきた。
近年,この球面収差を補正する装置の開発が進められてきたが,大型の超高圧電子顕微鏡には搭載できなかった。今回,1.2MVのエネルギーのばらつきを抑えた電子ビームや高安定電界放出電子銃などの実現により安定性を大幅に高め,超高圧電子顕微鏡では世界初となる球面収差補正器の搭載を可能にした。
この装置の性能を評価するため,どのくらい微細な構造をカメラに伝達できるかを示す情報伝達性能を,タングステンの単結晶を試料に用いて検証した。その結果,球面収差を補正した状態で世界一の分解能となる43pmの結晶構造情報を伝達できることを確認した。
また,この装置によって撮影したGaN結晶の顕微鏡像において44pm間隔のGa原子を分離して観察できることも確認した。これらの性能は,開発した電子顕微鏡が,試料の構造や電磁場を原子レベルで観察・計測できることを示すもの。
同社は今後,世界トップレベルの研究機関との連携を進め,高性能磁石,大容量二次電池,超低消費電力メモリデバイス材料,高温超伝導材などの機能を発現させている原子レベルの電場や磁場の振る舞い(量子現象)を解明し,量子力学や物性物理などの発展と持続可能な社会を支える新材料の開発に貢献していくとしている。
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