NICTと佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターは,乾電池による自立駆動が可能な小型の超高真空ポンプを装備した,可搬型軽量真空装置を共同開発した(ニュースリリース)。
放射光施設など大型共用施設でユーザが分析や加工をする際,多くの場合は試料を大気中で調整して分析装置にセットし測定を行なうが,触媒や電極など反応性の高い表面を有する試料は,その測定前の調整過程で大気中の酸素,二酸化炭素,水蒸気などで汚染され物性が大きく変化してしまうという問題があった。
今回,九州シンクロトロン光研究センターで開発,運用されてきた試料搬送導入装置と,NICTが開発してきた電池駆動可能な小型の超高真空イオンポンプを組み合わせて,搬送容器内を常時超高真空排気できる「可搬型超高真空試料搬送導入装置」を開発した。この搬送容器内に,電池材料として使用されることの多いコバルト(Co)金属を超高真空下清浄化した後,そのまま収納してその表面状態の変化を光電子スペクトルにより評価した。
その結果,搬送導入装置内で保管することでCo金属表面の酸化が効果的に抑制されていることがわかった。具体的には,Co原子から放出された光電子のスペクトルのピーク面積とCo金属に吸着したO原子から放出された光電子のスペクトルのピーク面積の比較から,真空中で清浄化したCo金属表面の酸化は大気中に放置した場合の1/4程度に抑制されていることがわかった。
この可搬型超高真空試料搬送導入装置を用いれば,反応性の高いデリケートな試料もその基本物性を損なうことなく遠距離にある放射光施設に搬送し分析することが可能となる。ユーザの研究拠点と放射光施設の真空環境がシームレスに接続されることとなるほか,試料を複数の研究拠点にて共有し連携させることで,研究の効率化も図れる。