ブリストル大学と京都大学の研究グループは,コンピュータシミュレーションと情報理論とを組み合わせた研究を行ない,ガラス状態にある物質中では,固体的領域と液体的領域が混在するものの,低温・高密度になるほど固体的領域のサイズが増大し,その領域では分子がある特定の幾何学的構造(例えば正20面体)に組織化されていることを発見した(ニュースリリース)。この結果はガラスが確かに固体であることを示す有力な証拠となるもの。
固体とは,微視的には分子が結晶的な規則正しい配置に収まって移動しない(流れない)状態を意味し,液体とは明確に区別できる。しかし,ガラスを構成する分子は規則正しい状態には収まっておらず,非常にゆっくりだが,移動し(流れ)続けているように見える。ガラスの場合,例えば窓ガラスが知覚できる程度に流れるには千年以上かかるとも言われている。もしそうだとすると,一般常識には反するものの,ガラスが固体だと断言する根拠に疑問が残る。
ガラスという巨視的には固体に,微視的には液体に見える不思議な状態に関する研究は古くからあるが,その本質は未だに解明されていない。今日のスーパーコンピュータの力を持ってしても,ガラスが千年のスケールで流れるか否かという問題に,直接答えを出すには性能が遠く及ばない。
ガラスを構成する個々の分子は,一見完全にランダムに見えつつも,それぞれ他の分子と情報を交換しながら複雑に連動して動いている。情報理論は,それらの間にある隠れた規則性を感知し,定量化するための数学的なツールを我々に提供する。
今回,コンピュータシミュレーションと情報理論とを組み合わせた研究を行ない,ガラス状態にある物質中では,固体的領域と液体的領域が混在するものの,低温・高密度になるほど固体的領域のサイズが増大し,その領域では分子がある特定の幾何学的構造(例えば正20面体)に組織化されていることを発見した。
ここでいうガラスとは,液体が温度低下とともに不規則な分子構造のまま固体的になった物質,あるいはその状態のこと。これ自体,非常に長い間解明されないままの難題だが,それだけではなく「粉粒体の詰り(ジャミング)」,「土砂や火山灰の流動化(土石流)」,「なだれ」,「交通渋滞」などの発生原理,さらには「分子混雑」と呼ばれる非常にこみ入った状態の生物の細胞内環境などもガラス状態と深く関係していることがわかっている。
いずれの問題も,世界最速のスーパーコンピュータでも答えを出すことが出来ない難問ばかりだが,ガラス状態の本質,あるいは液体がガラス化する原理を解明することによって,このようなガラスに関連した広範囲の問題の解明につながることが期待できる。
今回の成果は,コンピュータシミュレーションと情報理論を用いた一つの予測ではあるが,ガラスと液体との間に明確な違いを示唆できたことは大きな価値がある。研究グループは,その違いを物理量としていかに定量化するか,さらには同様の結果を実際のガラスについて実験的に得ることが出来るかどうかが,今後に残された課題だとしている。
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