慶大,レーザ焼結により廃シリコン粉末から多孔質複合厚膜を創製

慶應義塾大学の研究グループは,半導体デバイスや太陽電池の生産過程で大量に発生する廃シリコン粉末を主原料にカーボンナノファイバを添加し,特定条件下でのレーザ焼結技術を用いた多孔質の複合厚膜の創製に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。この手法は膜の機械的強度,結晶性および気孔率を同時に制御することができるため,高容量かつ低コストのリチウムイオン電池負極を作るための新しい製造プロセスの可能性を示すものとして期待される。

現在,携帯端末や電気自動車,スマートハウスなどの増加に伴ってリチウムイオン電池の高容量化が求められている。そのため,従来の炭素電極の代わりに,高容量化の見込めるシリコン電極に関する研究が進められている。しかし,シリコン電極の高コストや電池寿命の低下などが課題として残されていた。

研究では,膜の導電性および機械的強度を高めるため,廃シリコン粉末の中にカーボンナノファイバーを付加した。様々な条件でレーザ焼結実験を行なった結果,シリコンとカーボンナノファイバとの強固な結合が得られ,ネットワーク構造を有する多孔質複合膜の形成に成功した。

さらに,レーザの出力と膜の気孔率との相関性やレーザ照射により膜中のシリコンの結晶性制御の可能性などを見いだした。また,レーザ焼結プロセスの高速化によって,従来の蒸着法やスパッタリング法における成膜効率や生産コストの課題を克服したという。

シリコン負極はリチウムイオンを吸蔵すると約3倍の体積膨張が発生するため,充放電を繰り返すと膨張収縮により電極の割れや集電体からの脱離が起こる問題もある。その結果,導電経路が崩壊し,電池寿命の低下につながっている。今回の技術は,多孔質厚膜を用いて体積膨張を吸収・緩和すると同時にカーボンナノファイバのネットワーク構造を膜内へ形成させることで膜の割れを防ぎ,電池の長寿命化を可能にするとしている。

研究グループは今後,開発した多孔質複合厚膜をリチウムイオン電池負極として使用する際の電気化学特性について研究を行ない,この技術の実用化に向けての開発を進めていく。

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