東北大学の研究グループは,新型鉄系高温超伝導体のモデル物質である鉄セレンにおいて,超伝導を担う電子が,異常な秩序状態を形成することを初めて明らかにした(ニュースリリース)。
2008年に鉄を含む化合物で高温超伝導が発見されたのを契機に,類似の物質が次々と発見され,2008年の末には超伝導転移温度(Tc)が56Kまで上昇した。その後Tcの最高値は更新さていなかったが,最近になって,ある酸化物上で鉄セレンを極限(原子3個分の厚さ)まで薄くすることで,産業応用に向けた重要な目安となる液体窒素温度(77 K)をも越える高温超伝導の可能性が報告された。
この高温超伝導の母体となる鉄セレンは,鉄系超伝導体の中で最も単純な結晶構造を持つことから,超伝導機構の解明に向けたモデル物質として期待を集めている。高温超伝導が起こる起源を解明するためには,超伝導を担う電子の状態を調べることが重要だが,高品質の鉄セレン結晶を作成することは極めて困難で,この物質の電子状態はこれまで明らかになっていなかった。
研究グループは,鉄セレンの高品質単結晶の育成に成功し,外部光電効果を利用した角度分解光電子分光を用いて,鉄セレンから電子を直接抜き出して,そのエネルギー状態を高精度で調べた。その結果,超伝導が発現するよりも高い温度(110K)で電子のエネルギー状態に大きな変化が起こり,伝導面を縦方向に動く電子と横方向に動く電子で,動きやすさに違いが生じることを明らかにした。さらに,このような異常な状態が,鉄セレンの結晶構造の変化が起こる温度(約90K)よりも高い温度(110K)で起こっていることも明らかにした。
これは,電子軌道の変化が,結晶構造の変化という外的要因によらず,自発的に引き起こされている可能性が高いことを示すもの。鉄セレンでは,高温超伝導をはじめとする興味深い超伝導特性が報告されているが,今回の研究によって,その背後に異常な秩序状態が存在することが明らかになった。
今回の研究によって超伝導発現の基盤となる電子状態が確立したことで,超伝導機構の解明に向けた研究が進むと考えられる。また,異常な秩序状態と高温超伝導との関係を明らかにすることで,更に高いTcを持つ物質設計の指針が得られると期待される。研究グループは現在,原子レベルで厚さや構成元素の種類を制御した超伝導体薄膜の開発を進めており,電子状態の研究を通して得られた設計指針に基づき,原子レベルで制御した薄膜を作成することで,更に高いTcを持つ物質の発見が期待できるとしている。
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