理化学研究所(理研)と東京大学は,全脳イメージング・解析技術「CUBIC(キュービック)」の透明化試薬を用い,マウス個体全身における遺伝子の働きや細胞ネットワーク構造を三次元データとして取得し,病理解析や解剖学に応用するための基盤技術を開発した(ニュースリリース)。
この技術によってマウスの全身および臓器を丸ごと透明化し,細胞一つ一つを識別し,1細胞解像度で観察することができる。
マウス個体には約300億個の細胞があり,複雑な細胞ネットワークが構築されている。共同研究グループは,個体全身の遺伝子発現の様子や細胞ネットワークの動きを定量的に取り扱うことで,個体レベルで生命現象を捉え,その現象の仕組みを解明する,新たなイメージング技術の開発を目指した。
共同研究グループは,CUBICの透明化試薬に含まれるアミノアルコールが,生体組織中の代表的な色素である血液中のヘムを溶出し,組織の脱色を促進することを発見した。生体組織による光の散乱だけでなく,光の吸収を抑えることで10日から2週間のうちにマウスの臓器および全身を丸ごと透明化できる新しい透明化プロトコールの開発に成功した。
さらに,シート照明型蛍光顕微鏡を用いることで,体内の解剖学的構造や遺伝子発現の様子を1細胞解像度で三次元イメージとして高速に取得することが可能となった。また,膵臓におけるランゲルハンス島の体積や個数を統計解析する手法を作り,糖尿病モデルマウスのランゲルハンス島の三次元病理解析を可能にした。さらに,イメージング画像解析から,各臓器において解剖学的に重要な心臓の心房・心室や肺の気管支樹などの構造を抽出することにも成功した。
この基盤技術は,遺伝学的に組み込んだ蛍光タンパク質を検出するだけではなく,免疫組織化学的な解析にも適用できる。研究グループはこの成果について,一個体の生命現象とその原理を解明できることから,生物学だけでなく,医学分野においても大きな貢献が期待できるとしている。
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