大阪大学の研究グループは,九州工業大学,大阪府立大学と共同で,シリコンをナノ構造化することで,シリコンの持つ熱電変換効率を3倍以上向上させることに成功した(ニュースリリース)。
既存熱電変換材料はテルルや鉛といった有毒で希少な元素から構成されており,熱電発電の実用化の一つの障壁となっている。一方シリコンは,無毒で資源量も豊富であるという利点を有しながらも,熱伝導率が高いことが原因で,これまでその熱電変換効率はよくなかった。
しかし,材料をナノ構造化することで,電気的性質には影響を及ぼすことなく,熱伝導率のみが低減できることが理論上わかっていいる。研究グループは今回,極めて簡単で再現性の高い手法でナノ構造化されたバルク状のシリコンを作製することに成功した結果,シリコンの熱電変換効率が3倍以上向上した。
具体的には,、シリコンにごく少量のリンとゲルマニウムを混ぜ合わせ,高温で溶解させ冷却後に試料を粉砕し,放電プラズマ焼結法により,高温下で粉末状試料を加圧成形し高密度の焼結体を得る。このとき,リンとゲルマニウムの添加量と,放電プラズマ焼結の条件を最適化することで,シリコンとリンからなる化合物のナノドットがシリコン中に均一に析出したナノ構造シリコンを作製することに成功した。
熱電発電技術は,小型・軽量,高信頼性,メンテナンスフリーといった特長から,これまでは主に惑星探査機に搭載される原子力電池の電源として利用されてきた。今回,無毒で資源量も豊富なシリコンで熱電変換効率の大幅な向上が達成された。
研究グループは今回の成果により,様々な場所で多量に捨てられている低品位な熱エネルギーを回収し高品位な電気エネルギーとして再利用する技術(熱電発電技術)の実用化を加速させることが期待できるとしている。具体的には,工場やごみ焼却施設からの排熱を利用した直接発電システムや,自動車の燃費向上のための排熱回生システム等への応用が考えられるとしている。
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