京都大学の研究グループは,ヒトiPS細胞から,血管構成細胞を含む心臓組織を模した心臓組織シートを作製し,ラット心筋梗塞モデルにおいて移植後の生着および治療に有効である可能性を示した(ニュースリリース)。
現在,重度の心筋症の患者に対しては,心臓移植が最も有効かつ最終的な治療法とされているが,ドナー不足は深刻で,心臓移植以外の有効な治療法が求められている。重症心筋症の患者は,拍動の源である心筋細胞が失われているだけでなく,心臓を構成している多様な細胞(血管を構成する細胞など)が失われていることから,細胞の移植効果をさらに高めるには,心筋細胞以外に心臓を構成する細胞も十分に補うことが望ましいと考えられる。
また,心臓への細胞移植治療を困難における問題点は,心臓に直接注入移植あるいはカテーテルにより冠動脈内に注入移植された細胞が十分に生存して長期的に心筋内に留まる(生着)効率が低いことにある。研究グループは,より細胞の生存・生着を高めるような移植方法として温度感受性培養皿を用いた細胞シート技術に着目し,この細胞シート技術をヒトiPS細胞から分化誘導した心臓構成細胞に用いることにより,心臓組織を模した「心臓組織シート」を作製し,さらに,それを心疾患動物モデルに移植することにより治療効果および細胞生着効果を検証した。
今回の研究のポイントは次の3つ。
・ヒトiPS細胞から心筋細胞および血管構成細胞(血管内皮細胞・血管壁細胞)を同時かつ効率的に分化誘導する方法を新たに開発した。
・分化誘導された心臓を構成する細胞群を細胞シート状に形成することに成功した(ヒトiPS細胞由来心臓組織シート)。
・ヒトiPS細胞由来心臓組織シートをラット心筋梗塞モデルに移植することにより,心機能の回復と心筋層の再生を認めた。
特に,このヒトiPS細胞由来心臓組織シートを3層重ねたものを,ラット心筋梗塞モデル(ラットの冠動脈を糸で縛って固定後1週間経過したもの)に移植したところ,移植後2ヶ月の経過観察期間において,心筋梗塞により一旦障害された心機能の回復を認めた。
心筋と血管構成細胞によるシートで移植による血管新生の促進とシートの生着が認められたことから,ヒトiPS細胞由来心臓組織シートは,重症心筋症により障害された心不全に対する治療方法の一つとして,心臓再生医療の可能性に繋がる有用な成果と考えられるとしている。
研究グループは今後,シートの多層化など,組織構造を改良し,シートの機能を高めることを期待している。また,今回移植に用いたげっ歯類(ラット)とヒトでは心拍数も異なるため,ヒトの心拍数に近い大型の動物での検証や,腫瘍化を含む安全性の検証など,iPS細胞による再生医療に向けて研究を進めるとしている。
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