浜松ホトニクスは,同社が2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊東京大学特別栄誉教授の依頼により開発した,神岡陽子崩壊実験「カミオカンデ」用の20インチ光電子増倍管が,素粒子ニュートリノの観測に貢献したとして,世界最大の電気・電子・情報・通信分野の学会IEEE(米国電気電子学会)から,IEEEマイルストーンに認定さたと発表した(ニュースリリース)。
陽子が崩壊すると,陽電子などの素粒子が飛び出す。水中では,光の速度は遅くなるため,素粒子の速度が光速を超える現象がある。高エネルギーの電気を持った素粒子が光速を超えた時に衝撃波が発生して,青白い微かなチェレンコフ光を出す。光電子増倍管は,その光の強度や時間などを測定する役割を担う。
また,素粒子ニュートリノも同様に,まれに水と反応したときに発する極微弱なチェレンコフ光を捕えることで観測できる。観測実験では,ニュートリノが水と反応する確率を高めるために巨大な水のタンクを用意し,その壁面を多数の超高感度で高速応答な光検出器で埋め尽くすことで,精度良く観測できる。
これを観測するために,小柴昌俊氏が要求した光電子増倍管のサイズは,直径25インチ(約63センチメートル)。当時は桁違いの要求だったが,結果的には,ガラス管製作の関係で20インチ径となった。
こうして製作された光電子増倍管は1982年7月に納入を完了し,1983年8月から観測が開始された。数々の工夫により,本来の目的だった陽子崩壊だけでなく,1986年12月には宇宙からのニュートリノや大気ニュートリノ,太陽ニュートリノまで検出できるようになった。
陽子崩壊は,未だに実験による証明はなされていないが,16万年前に起こった大マゼラン星雲の超新星爆発によるニュートリノを,16万年の歳月をかけて飛来し地球を通過した1987年2月23日に人類で初めて観測に成功した。
現在,同社では100万トン級の次世代大型水チェレンコフ観測装置ハイパーカミオカンデ計画に向け,20インチ径のハイブリッド型光検出器を開発している。これは,電子増倍部を光半導体素子に置き替えたもので,電極など数10から数100点の部品で構成される光電子増倍管に比べ,わずか6点の主要部品で構成することから,量産を可能とする。
今回の認定式は,IEEE名古屋支部が主催して,2014年11月5日に,同社電子管事業部の主要拠点豊岡製作所において行なわれる予定。
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