富士通研,車載ミリ波レーダを低コスト化するCMOS送受信チップを試作

富士通研究所は,低コスト化が可能な半導体プロセスであるCMOSを使用したミリ波レーダ用送受信チップを試作し,近距離検知性能向上を実現することに成功した(ニュースリリース)。

状況に応じて自動車を自動的に制御する技術が急速に普及しつつある。障害物を検知するセンサとしては,ミリ波レーダやレーザレーダ,ステレオカメラなどがある。特にミリ波レーダは,レーザレーダやステレオカメラの可視光線を使うセンサに比べて雨,霧や逆光などの影響を受けにくい特長があり,その低コスト化を実現する技術が求められていた。

ミリ波レーダは,使用する電波が76-81GHzという非常に高い周波数であるミリ波を使っているため,従来はSiGeバイポーラトランジスタなどの特殊な半導体を使う必要があった。しかし半導体技術の進歩によってCMOSでも,ミリ波回路の実現が可能になってきた。

しかしCMOSは,従来のSiGeバイポーラトランジスタに比べて低い電源電圧で動作可能なため消費電力を小さくでき,ミリ波領域(76-81GHz)において概ね同等の性能を示すものの,低周波領域でのノイズ成分が大きいという問題があった

ミリ波レーダの場合,発振器のミリ波信号を送信し,障害物で反射してきた信号と元の送信信号との差分を比較することで,障害物の距離・速度・方位の検出を行なう。特に近い距離にある反射の弱い歩行者などの検知性能を向上させるには,この低周波領域のノイズの低減が求められていた。

同社は今回,受信回路の中の周波数変換回路にダブルバランスト・レジスティブ・ミキサを採用した。これにより低周波領域でのノイズ上昇を防ぐことが可能となり,さらに,レジスティブ・ミキサを差動合成するダブルバランス構成にすることで,10kHz以下のノイズ低減と高周波特性の両立に成功した。

この回路を使用して,現行のSiGe製品と同等の機能を有した4chの受信チップを試作した。また昨年発表した低位相ノイズのPLLシンセサイザを採用した送信チップも併せて試作し,ミリ波レーダを構成する主要な高周波半導体回路全体を一般的な65nm CMOSプロセスで実現することに成功した。

受信チップの低周波領域のノイズを表すSSBノイズ指数で比較すると,今回の発表のものは12dBであり,従来のSiGe製品と同等以上で,従来学会などで発表されていたCMOSの30dBに対しては18dB改善している。この改善はノイズの大きさが約60分の1と大幅に低減したことに相当する。

また,従来のSiGeは電源電圧が3~5Vで動作するのに対し,今回のCMOSは1.2Vの電源電圧で同等の性能を実現しており,消費電力を半分程度にすることにも成功した。

今回実現した低周波領域のノイズ低減によって,ミリ波レーダの近距離域の検知性能が向上するため,レーダ波の反射が弱く近距離での検知が必要な歩行者などの検知性能向上に貢献するという。65nm CMOSプロセスを使用しているため,大量生産が可能で低コスト化も容易であり,同社では2018年頃の実用化を目指すとしている。

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