NICT,物の光沢知覚に関わるヒトの脳部位を特定

NICTは,機能的磁気共鳴撮像法(fMRI)を用いて,物の光沢知覚に関わるヒトの脳部位を世界で初めて特定した(ニュースリリース)。光沢知覚とは,物体表面の微細な形状特性に起因する「光の反射の強さや拡がりの度合い」に対応した感覚で,つや(艶)とも呼ばれる。

実験では,光沢が低い物体よりも光沢が高い物体を提示したときに脳活動が高くなる脳部位の同定を試みた。通常,光沢が高くなると,表面反射によるハイライト(明るい輝点)が加わるため,画像の平均的な明るさも高くなり,脳活動の変化が光沢変化によるものか,明るさ変化によるものか判断できなくなる。

そこで,光沢感は照明の強さに大きな影響を受けないというヒトの視覚特性(恒常性)を利用し,照明を変化させても,光沢が高いときに脳活動が高くなる部位を調べた。

実験の結果,光沢の知覚には,これまで分離していると考えられてきた二つの視覚経路,腹側経路(hV4,VO-2)と背側経路(V3A/B)の両者が関与することが明らかになった。

さらに,光沢変化に付随する視覚的な特徴変化(ハイライトによる色変化など)を排除するために,同一の視覚刺激を提示し,被験者が行なう課題の差異による脳活動の変化を計測した。

具体的には,一対の物体を順番に被験者に提示し,それらの物体の光沢が同じかどうか判断する課題と,物体の形状や方向が同じかどうか判断する課題の間で脳活動を比較し,光沢判断時に脳活動が高まる脳部位を調べた。

その結果,2つの実験で共通して,hV4,VO-2,V3A/Bという3つの脳部位が光沢知覚に関連する部位として特定された。hV4,VO-2は大脳視覚野の腹側経路に位置し,V3A/Bは背側経路に位置しており,光沢の知覚に両経路が関わることが明らかになった。

このことから,光沢知覚が材質の認識だけでなく,物に触れたときの感触等にも関与していることが示唆される。NICTは今後,これら複数の脳部位のそれぞれが,どのような機能的役割を持つのかを明らかにすることで,従来,主観的な印象報告に基づいていた質感の評価を,脳活動から客観的に評価することが可能になるとしている。

関連記事「生理研ら,脳がどのような情報から光沢を評価しているかを解明」「凸版印刷,ざらつき感や光沢感などの質感を記録・再現する質感表示技術を開発