北大,X線結晶構造解析により病原菌が赤血球を破壊する仕組みを解明

北海道大学の研究グループは,黄色ブドウ球菌が赤血球を破壊するために分泌する毒素の作用メカニズムを解明した(ニュースリリース)。

病原性微生物は様々な毒素を分泌して病原性を発揮する。毒素の一つである膜孔形成毒素は,細胞膜に膜孔と呼ばれる孔をあけて,相手の細胞を殺傷する。膜孔形成毒素は可溶性の単量体の蛋白質として分泌されるが,攻撃対象の細胞を見つけると,その細胞膜上で円状に会合した後,大きく形を変えて膜孔を形成し,ターゲット細胞を破壊する。

膜に孔をあけて相手の細胞を殺傷するのは病原性微生物に限った話ではなく,ヒトをはじめとした高等生物も免疫機能の一環としてこのような方法で敵を攻撃しており,膜孔形成は普遍的な細胞攻撃の機構であると言える。

研究グループは,黄色ブドウ球菌の分泌する膜孔形成毒素の膜孔を形成する直前の状態の結晶を作製し,その詳細な構造を,X線結晶構造解析により決定した。解析には大型放射光施設(Photon Factory,SPring-8)を利用した。

これまで,単量体の構造(最初の形)と,膜孔の構造(最終的な形)が分かっており,孔の部分は円筒状の形をしていることが分かっていた。今回,明らかになったのは,それらの間の状態の構造だが,円筒状の孔の上半分だけが形成されていた。

これまでは,円筒形の孔が一気に形成されると思われてきたが,今回の研究により,孔は一気に作られるのではなく,初めに上半分だけが形成され,その後,下半分が形成されるという,2段階の過程を経て作られることが明らかになった。

膜孔は,孔の内部を物質が通過する性質を利用して,DNA シーケンサや分子センサとして応用されているが,孔を形成する過程がわかったことにより,研究グループは今後,孔を形成する際の動きを利用した分子デバイスへと応用されると期待している。

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