慶大,0.1秒でテラヘルツ電磁波のベクトル時間波形を計測できる装置を開発

慶應義塾大学の研究グループは,0.1秒という極めて高速なテラヘルツ電磁波のベクトル時間波形計測装置の開発に成功した(ニュースリリース)。

様々な動的機構部品のプラスチック製品の内部のひずみは機械の故障や事故につながることから,プラスチック材料を透過するテラヘルツ電磁波を用いて非破壊検査する方法が検討されている。特にテラヘルツ電磁波の偏光情報を用いることで,透過光の偏光回転の度合いによって内部応力をモニターする試みが世界中で進められている。

しかしながら,一般にテラヘルツ電磁波の偏光計測は測定に時間がかかるため,実用化に向けた課題となっていた。研究グループは2012年にテラヘルツ電磁波の検出に用いる非線形光学結晶を高速回転させることで,素早くその偏光状態を計測できる装置を開発している。しかし,一分間に6000回転程度という結晶の回転速度が偏光計測の速度を律速すると共に,回転機構を含むため,振動の大きい環境下では安定した計測が難しいなどの問題点があった。

今回,機械的に検出結晶を回転させる方式ではなく,電気光学変調器を用いた偏光変調方式を採用した。具体的には,テラヘルツ電磁波を印加した検出結晶を透過する際に,検出用パルス光が受ける偏光状態の変化を,電気光学変調器を用いて変調計測する。その結果,テラヘルツ電磁波のベクトル情報を,従来技術よりも約20倍速く計測することができるようになった。

さらに,時間波形を取得するための高速ステージと組み合わせることによって,テラヘルツ電磁波のベクトル時間波形をわずか100ミリ秒で計測することが可能になった。電気光学変調器を用いた偏光変調方式を新たに採用することによって,機械的な回転速度に律速されず,周囲環境の振動の影響も受けづらい,極めて高速なテラヘルツ電磁波の電場ベクトル時間波形の計測が可能になった。

研究グループは今後,開発した装置をイメージング装置に組み込むなどの工夫を行ない,プラスチックの残留応力検査装置など実用的な装置開発を進めていくとしている。

関連記事「東大ら,超伝導体の電子対の密度をテラヘルツ波によって振動させることに成功」「東工大ら,CNTを用いたテラヘルツ波検出器の開発に成功」「茨城大学,実効屈折率0.5のテラヘルツ波帯凹レンズを開発」「理研、室温で2次元のテラヘルツ波像を高感度に可視化する技術を開発