生理研,目が見えなくても相手の動作を認識する脳のネットワークは形成されることを発見

生理学研究所研究グループは,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて,他者の手に触れてその動作を識別している時の脳の活動を測定し,このネットワークの一部は,生まれつき目が見えない人でも,目が見える人と同じように,活動をすることを突き止めた(ニュースリリース)。

人間は目を使うことで,他者が行なう動作を理解したり学んだりする。その一方,生まれつき目が見えないとしても,視覚以外の感覚を活用することで動作の理解や学習はできる。

脳の中には,相手の動作を認識するために働くネットワークが存在する(Action Observation Network,AON)。目で見た情報を専ら処理する脳部位を視覚野と呼ぶが,AONには視覚野の一部(Extrastriate Body Area,EBA)が含まれている。

今回の研究では,目が見えない場合にAONはどのような機能を果たしているのかを探るため,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて,手の動作を認識した時の脳の働きを晴眼者と視覚障害者で比較した。

研究グループは,視覚障害者群28名(18名の先天盲と10名の中途失明者)と,年齢や性別が一致した晴眼者群28名に対し実験を行なった。4種類の手の動作をかたどった模型・4種類の急須の模型・4種類の車の模型を制作し,どちらの群の参加者も目を閉じた状態で模型を触り,手に触れた場合はその動作を4択で当て,急須や車に触れた場合はそれぞれの種類を4択で当てた(触覚識別課題)。さらに触覚課題の後に,晴眼者群は同じ模型を見て当てる課題(視覚識別課題)を行なった。

急須や車の認識時に比べて手の動作の識別時に強く活動する脳部位を,Action Observation Network (AON)として特定した。その結果,晴眼者群では触覚課題でも視覚課題でも,EBA・縁上回の活動が観察された。

さらにこれらの領域の一部は,視覚障害者のうち先天盲群でも確認することができた。この結果は,AONが感覚に関係なく駆動するだけでなく,視覚を使った経験の有無にかかわらず発達することを示すもの。

研究グループは。この研究の成果について「なぜ目が見えなくても他者の手の動作を認識・学習することが可能なのか」を説明し,目が見えない場合の社会能力の発達を考える上で重要な知見になるとしている。

関連記事「京大,fMRIを用いて「嘘つき」と「正直者」の脳の活動の違いを解明」「生理研ら,自閉症スペクトラム障害者は自分の動作が真似をされたことを気づくための脳部位の活動が低下していることを発見」「名大ら,安静状態の脳活動パターンが自閉症スペクトラム傾向に関与することを発見」「立教大、手に与えられた振動によって視覚情報が阻害されることを発見