東北大と福田結晶技術研究所は,GaNを主材料とする窒化物半導体からなる青色発光ダイオード(LED)及びブルーレイ用レーザの高性能化に向けた格子不整の小さい新しい基板ScAlMgO4(以降SCAM)とその適用性を確認した(ニュースリリース)。
GaN 発光ダイオード(LED)用基板としてサファイア結晶やSi結晶が使われ製品化されているが,いずれの基板もGaNとは格子定数のミスマッチが10%以上もあり,LEDの効率,レーザ(LD)の歩留りおよび素子寿命の点で大きな障害になっている。
一方,米国ベル研究所で1995年に高輝度GaN LED用結晶基板として開発されたSCAMは,GaNとの間の格子不整合はわずか1.8%しかない。しかし結晶作成が難しく,結晶は製造されていなかった。
福田結晶技術研究所は米国のLEDメーカからSCAM 結晶製造技術開発依頼を受けて着手したが,東日本大震災による被害のため,開発計画を断念していた。一方,東北大学金属材料研究所教授の松岡隆志氏は,GaN研究開始当初から格子整合基板を探していたが,福田結晶技術研究所との共同研究の中で,同研究所がSCAM結晶の成長に成功していることを知り,SCAM基板を用いたGaN薄膜成長の研究を始めた。
福田結晶技術研究所はSCAM結晶製造に再着手した結果,回転引き上げ法(Cz法)によるサファイア結晶引上げ技術をベースに,SCAM結晶の成長条件を検討した結果,直径2インチ結晶の作成に成功した。東北大学は,GaN結晶の薄膜成長に用いられる有機金属気相成長(MOVPE)装置を用いて,SCAM基板上にLLEDを試作した。その結果,SCAMはGaNによる高輝度LEDやLD のための基板として優れた特性をもっていることを確認した。
今回の成果の概要は,
・CZ法で直径2インチ高品質結晶作成に世界で初めて成功。結晶品質は劈開加工したC面をX線回析で評価した結果,半値巾12.9秒で,Siの完全結晶に匹敵した。
・開発のポイントはSCAM開発者との打合せを通じて得たSc₂O₃-Al₂O₃-MgO 3成分系からの結晶成長条件と炉内温度分布測定による最適炉構造の構築。
・ウェハ加工においては,サファイア等と異なって,インゴットから切断や研磨をせずに劈開加工でエピレディウェハに成功した。世界に類例のない画期的な加工技術であり,ウェハの大幅なコスト化が可能となる。ウェハ劈開加工はMgO結晶加工を参考にした。
・SCAM結晶劈開面にMOVPE法により1040℃の高温でGaN薄膜成長した結果,鏡面で低転位結晶ができることが判った。劈開加工面へのエピ成長では類例がない。
東北大学では,SCAMの直径4インチから6インチへの大口径化,GaN自立基板への開発を進める予定。また,福田結晶技術研究所は来春をメドに国内S社と共同で直径2インチ結晶ウェハを販売する。販売代理店は住友商事を予定している。
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