コムギゲノムの解読のために2005年に結成された,国際コムギゲノム解読コンソーシアム(IWGSC)に参加している,京都大学,横浜市立大学,日清製粉らの研究グループは,イネの40倍もあるコムギゲノムの塩基配列の概要を明らかにし,コムギのさまざまな特徴を決定する遺伝子を約12万個見出した(ニュースリリース)。
これら遺伝子の機能を解明し,農業上有用な特性に関わる遺伝子の単離や,DNAマーカーの開発を進めることにより,病気に強く栽培しやすい品種などの作出を加速することが可能となる。
コムギは世界第二位の生産量をもつ穀物で,第一位のイネ,第三位のトウモロコシとともに人類の食料基盤を支えている。しかし近年では,地球規模の環境変動や人口増加によって世界のコムギ需給は逼迫しつつあり,「環境の変動に強く,安定して生産できるコムギ品種」や「収穫量が飛躍的に高いコムギ品種」の開発が急務となっている。
また,我が国においては,優れた製粉品質を持ち十分な生産量を確保できる良品質高収量の品種や,日本の湿潤な気候等によって多発する穂発芽や赤かび病等に対して十分な耐性を持つ品種の開発が切望されている。しかし,コムギのゲノムはイネの40倍と大きく,またコムギゲノムは異なる三種類のゲノムで構成されるため,農業上有用な特性に関わる遺伝子の単離や,DNAマーカーの開発が困難だった。
IWGSCでは,まずコムギの核から染色体を一対ずつ取り出し,染色体毎に配列の解読を行なった。解読した配列を整列化させたところ,染色体の61%に相当する領域をカバーしていた。また,農業生物資源研究所を中心として行なったイネゲノム研究の成果や,横浜市立大学が収集したコムギ「発現遺伝子情報」を活用し,整列化したコムギのゲノム中に,現時点で124,201個の遺伝子があると推定した。
今回解読されたゲノム概要配列は解読量が十分に多く,染色体ごとに区別されていることから,コムギの育種効率を一層向上させ,画期的な新品種の開発において,その利用価値は極めて高くなるとしている。