NTTら, 高純度半導体における電子の結晶化の観測に成功

日本電信電話(NTT)と科学技術振興機構(JST)は,核磁気共鳴(NMR)を用い,半導体ヘテロ構造において,低温かつ強磁場で電子が結晶化する様子を観測することに成功した(ニュースリリース)。

今回,研究チームは,砒化ガリウム(GaAs)と砒化アルミニウムガリウム(AlGaAs)のヘテロ構造中の高移動度2次元電子に対して,GaAs層を構成する砒素(As)原子のNMR測定によって,電子系が低温・強磁場中で結晶化していることを直接的に示す結果を得た。

核スピンの共鳴周波数は電子スピンが作る有効磁場によってナイトシフトと呼ばれる変化を起こす。NMRはこのナイトシフトを測定することで電子スピンに関する情報を得る。今回の実験では,ナイトシフトが電子の局所密度に比例することを利用して,電子の結晶化によって局所密度が2次元面内で変化している様子を観測することに成功した。さらに電子結晶の波動関数を用いたシミュレーションと実験の比較により,電子結晶のミクロな構造が初めて明らかになった。

これは,電子が結晶のように整列することで電子スピンが核スピンに及ぼす有効磁場が空間的に変化することを利用したもので,高純度の半導体ヘテロ構造と高感度の抵抗検出NMR法を用いることで初めて可能になった。

80年前に理論的に予言された「ウィグナー結晶」と呼ばれるこの電子の結晶状態については,これまで電磁波の共鳴吸収など間接的な情報しか得られていなかったが,今回の実験により,そのミクロな構造が初めて明らかになった。この成果は,NMRが半導体中の電子のスピンだけでなく,電荷や軌道の状態を調べるのに有力な手法であることを示しており,今後,ウィグナー結晶以外のさまざまな電子状態の解明や,新たな物性の開拓につながるものと期待される。

また,不純物によって生じる電子分布の変化をナノメートルスケールで調べるなど,電子デバイスをナノレベルで評価する手法として有用な技術になるとしている。