北海道大学と首都大学東京は共同で,光アンテナ機能を有する金属を担持した酸化物半導体基板を用い,従来の人工光合成では利用することができなかった650〜850nmの可視・近赤外光も利用可能な人工光合成の開発に成功した(ニュースリリース)。
さらに,基板の表面と裏面に異なる金属を配置する単純なシステムにより水を光分解し,それぞれの面から水素と酸素を分離して取り出すことにも成功。従来とは異なる方法論で水素の分離が可能であることを示した。
研究グループは,0.05wt%のニオブをドープ(添加)したチタン酸ストロンチウム単結晶基板の表面に波長630nm付近にプラズモン共鳴を示す金ナノ粒子を形成させ,基板の裏面に水素発生の助触媒として白金板をIn-Ga合金によるオーミック接触を介して固定した。反応セルの中央には作製した基板を設置して2つの反応槽に分け,水素と酸素発生をそれぞれの反応槽で分離して行なうことに成功した。
今回の実験では,金ナノ粒子側において酸素発生を,白金側において水素発生をそれぞれ分離でき,それぞれの反応槽の水溶液のpHを制御することにより化学バイアスを印加した。その結果,水素および酸素の発生量は照射時間に対して線型的な応答を示し,水素および酸素の発生量の比率は2:1となったことから,化学量論的に水の光分解が誘起されることが明らかになった。
また,水素発生量のアクションスペクトルは,プラズモン共鳴スペクトルの形状と一致を示し,プラズモン共鳴に基づく電荷分離(電子-正孔対形成)によって水素および酸素が発生していることが明らかになった。つまり,プラズモンによって増強された近接場光が,金の電子を励起し,励起された電子がチタン酸ストロンチウムの電子伝導体に電子移動し,白金表面でプロトンを還元して水素発生を,形成された正孔がチタン酸ストロンチウムの表面準位にトラップされ,水分子または水酸化物イオン(pHに依存)を酸化して酸素発生を誘起したと考察される。
pH依存性の実験結果から,水素発生側はpH3でも水素が発生すること,そして酸素発生側はpH6.8 でも酸素が発生することを明らかにし,今回の系においては化学バイアスがそれらのpHの差に対応する約230mVというかなり低い値でも水
の光分解が誘起できることが示された。
今後研究グループは,半導体薄膜基板を用いることにより電気的な損失を低減して高効率化を図るとともに,助触媒の最適化を図り,0バイアスでの可視光水分解システムの構築を進めるとともに,水素だけではなくアンモニアなどの水素エネルギー密度の高い化学物質への変換も推進し,車などの移動体への搭載をも可能にする技術へと発展させた
いとしている。
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