京大ら,iPS細胞誘導技術を用いて人工大腸がん幹細胞の作製に成功

京都大学と神戸大学の共同研究グループは,iPS細胞誘導技術をがん研究に応用することで,人工的に大腸がん幹細胞を作製することに成功した(ニュースリリース)。

がん幹細胞は,がんの転移・再発・治療抵抗性の原因となる細胞で,いわば「がんの親玉細胞」と考えられている。そのため,このがん幹細胞を「たたく」新しい治療法の開発が期待されているが,まだその治療法は未確立の状態となっている。

その理由の一つとして,がん幹細胞はヒトのがん組織中でごく少数しか存在せず,十分な量の採取が難しいために,がん幹細胞の詳しい解析を行ないにくいことが挙げられる。そこで研究グループは,人工的にがん幹細胞を作製し,がん幹細胞を豊富に入手することを目的として研究を行なった。

その結果,iPS細胞誘導の際に用いられる遺伝子(OCT3/4, SOX2, KLF4)を大腸がん細胞株に導入した後,iPS細胞作製とは異なる培養環境を用いることで,一部のがん細胞に大腸がん幹細胞でみられる特徴を獲得させることに成功し,人工大腸がん幹細胞と名付けた。

さらに,この人工大腸がん幹細胞を選択的に回収する方法も開発した。また,この人工大腸がん幹細胞を詳しく調べた結果,ヒトがん組織中のがん幹細胞と同様の特徴を示すことを確認した。

この研究成果によって,これまで採取が困難であったがん幹細胞と同様の特徴をもつ細胞を豊富に入手することが可能になる。がん幹細胞がもつ性質について,より詳細な研究が可能となることで,がん幹細胞を標的とした新しい診断技術・治療薬の開発に役立つことが期待される。

関連記事「LSIメディエンス,iPS細胞由来の心筋細胞により副作用を高精度に予測するシステムを開発」「京大ら,ヒトiPS細胞を用いてALSモデルマウスの生存期間を延長することに成功」「理研,ヒトiPS細胞の分化多能性を向上させるタンパク質を発見」「九大ら,iPS細胞の分化誘導やがん化抑制の分子機序解明に繋がる逆転写酵素の重要性を解明