理化学研究所(理研)と琉球大学は,オオシロアリに13C安定同位体標識化セルロースを与え,NMR(核磁気共鳴)法で代謝物を網羅的に追跡することで,腸管内の共生微生物群によるセルロース代謝経路を解析した。その結果,新たな代謝経路を発見するとともに,シロアリと腸管内微生物群およびシロアリ個体同士の共生における栄養交換メカニズムの一端を解明した(ニュースリリース)。
シロアリは一般に害虫と思われているが,生態学分野では森林生態系の物質循環に大きく貢献する生物種とされている。また,多様な共生微生物が生息する共生系のモデル生物であるとともに,集団的な階級社会を作る社会性昆虫としても知られており,腸管内の共生微生物群レベルから宿主集団の社会構造に至るまで,多階層にわたる複雑な「ミニ生態系」を形成している。
生態系中のさまざまな生物学的現象は,高速DNAシーケンサを利用したメタゲノム解析などによる「遺伝子カタログの整備」という形で研究が進んでいる。しかし,例えば陸上生態系で最も多く存在するバイオマスであるセルロースの代謝経路全体を調べるためには,新たな解析手法が必要とされている。
研究グループは,陸上生態系モデルであるシロアリに,13C安定同位体標識化セルロースを餌として与え,その代謝経路を2次元NMR法により,宿主から共生微生物群までの全階層で可視化した。その結果,これまで遺伝的解析などにより個々に予測されていた代謝経路の全体像を明らかにすることに成功するとともに,後腸の共生バクテリアによる新たな代謝経路を発見した。さらに,必須アミノ酸を他の個体との栄養交換で摂取する栄養獲得経路も発見した。
今回の研究で応用した生物間相互作用解析技術と,継続的な環境試料の分析データベース構築を行なっていくことで,従来はヒトの五感に頼る暗黙知で捉えていた生態系サービスを,形式知化して維持,活用していくことが期待できる。