東京工業大学の研究グループは,同研究グループが開発した高分子反応プロセス(ESA-CF法)を用い,複雑な構造の多環状高分子の合成に成功した(ニュースリリース)。
高分子の「かたち」に基づく高分子材料設計指針の確立,とりわけ,直鎖状,分岐状,さらに多環状構造高分子を精密かつ自在に設計する合成プロセスに基礎を置いた,高分子の「かたち」に基づくブレークスルー物性・機能の創出は,高分子材料化学・工学を超えて,ナノテクノロジーによる新材料創製を推進する基盤技術としても期待される。
研究グループはこれまで,多種・多様な単環状・多環状トポロジー高分子を効率的に合成する反応プロセスの開発を進めてきた。その結果,独自に
分子設計した末端官能性高分子前駆体(テレケリクス)による高分子間静電相互作用を駆動力とする自己組織化と,さらに選択的共有結合変換を統合した方法(ESA-CF法:Electrostatic Self-Assembly and Covalent Fixation)を確立している。
今回合成に挑戦した四環三重縮合トポロジー(K3,3 グラフ構造)分子は,きわめて複雑な一次構造のため,これまで合成戦略を描くことのできていなかった。研究グループは,単一サイズの六分岐テレケリクスを新規に設計・合成し,ESA-CF法を用いて,ナノスケールのK3,3 グラフ構造高分子とその構造異性体を合成した。次いで両者の流体力学的体積(サイズ)の違いに着目してリサイクルSEC 分取を行ない,目的とするK3,3 グラフ構造高分子の単離を達成した。
このK3,3 グラフ構造は,「非平面グラフ」としてのトポロジー幾何学的性質が知られ,また最近,ユニークな生理活性を示す環状オリゴペプチド構造としても確認されたことから広く注目されている。したがって今回の成果は,高分子合成化学領域だけでなく生化学からトポロジー幾何学にまで広くインパクトを与えるものと期待される。