日本電信電話(NTT)は,ドイツのポール・ドルーデ研究所(PDI)及び米国のネイバル・リサーチ研究所(NRL)との連携により,原子1個の誤差もない高精度で位置と構造が制御された量子ドット(人工原子)と,それを組み合わせた人工分子を作製することに成功した(ニュースリリース)。これは,分子線エピタキシャル成長(MBE)法によって作製した半導体の清浄表面の上に,低温走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた原子操作によって,原子をブロックのように積み上げることで実現したもの。
インジウム(In)原子はインジウム砒素(InAs)表面に吸着すると自ら電子を1個放出して一価イオンになる。STMを用いると,表面の原子配列を観察できるだけでなく,表面にある原子を1つずつ拾って自由に別の場所に置く原子操作ができる。今回,PDIのSTM原子操作技術により,多数(6~25個)のIn原子をブロックのように自在に並べることで,量子構造を実現した。このイオン列が人工原子の「核」の役割を果たし,生じたポテンシャル井戸中に電子を閉じ込める。
MBE法による高品質な半導体薄膜の清浄表面にできた「くぼみ」に原子をブロックのようにはめこむことにより,同一の特性を持つ量子ドットを複数,再現性良く作ることを実現した。また,約10nm四方の領域に数nmサイズの量子ドットを3個集積化することにも成功しており,これは局所的な集積度では現在のコンピュータで使用されているLSIの約1000倍に匹敵し,集積化という面でも極限に近いレベル。
この技術を用いれば,原子のように特性が完全にそろった量子ドットを半導体基板上に自由に配列することができるため,完全に波長の揃った単一光子源や,同一の特性を持つ量子ビット列など,これまで構造の誤差によって実現が困難だった,原子レベルの再現性をもつ究極の量子デバイスが作製可能になる。さらにこのようなナノ構造を多数集積化し,制御することができれば,量子コンピュータや,従来のシリコン技術の限界を超えた“Beyond CMOS”と呼ばれる次世代技術に応用できる可能性がある。