東大と慶大,グリア細胞内の微細なカルシウム活動も見逃さない新しい生体内イメージング技術を開発

東京大学と慶應義塾大学らの共同研究グループは,超高感度カルシウムセンサをグリア細胞の隅々まで行き渡らせた遺伝子改変マウスの作製に成功し,グリア細胞全体のカルシウムシグナルを観察した。その結果,微細な突起のみで発生する新しいカルシウムシグナルを発見した(ニュースリリース)。

グリア細胞は神経細胞を取り囲むように脳に存在する細胞で,脳の平常の機能だけでなく病態制御への関与も示唆されている重要な細胞。グリア細胞の活動は細胞内カルシウムイオン(Ca2+)の濃度変化(カルシウムシグナル)が指標となっている。

これまでの研究では,生きた動物個体のグリア細胞のカルシウムシグナルを細胞の中心部(細胞体)で観察する手法が主流であったため,グリア細胞の微細な突起部分で起こるカルシウムシグナルの観察は困難だった。

研究グループは,遺伝子工学的な手法により、超高感度カルシウムセンサであるYC-Nano50を,グリア細胞の一種であるアストロサイトのみに発現する遺伝子改変マウスを作製した。このマウスのアストロサイトは細胞の隅々までカルシウムセンサを発現し,そのセンサが発する蛍光によって微細な突起までを観察できた。

このマウスに生体内イメージング法を適用し,アストロサイトのカルシウムシグナルを測定した。YC-Nano50 は,2 種類の蛍光タンパク質の蛍光強度比を算出することでカルシウムシグナルを検出するため,動物の心拍・呼吸・運動といった生体内イメージング法では不可避なノイズの影響をある程度減らすことができた。

このマウスのイメージングにより,麻酔下・無刺激の条件下で,アストロサイトが自発的に起こすカルシウムシグナルを測定したところ,アストロサイトの微細突起に限局したカルシウムシグナルが非常に多く,細胞体ではほとんど起こらないことが分かった。

研究グループは,このカルシウムシグナルを「Ca2+ twinkle」(カルシウム トゥインクル)と名づけた。Ca2+ twinkle は,主に細胞体を観察する従来のイメージング法では観察することができない新しいカルシウムシグナル。また,マウスの脳のカルシウムシグナルを測定したところ,生体内とは異なり細胞体でも多くのシグナルが観察された。微細突起に好発するCa2+ twinkle の性質には生体内環境が必要であることが示唆される。

さらに,遺伝子改変マウス尾部を刺激した際のアストロサイトのカルシウムシグナルを観察した結果,アストロサイトの微細突起の先端部分から生じたカルシウムシグナルが徐々に細胞内部へと広がり,最後に細胞体に到達する様子が鮮明に可視化できた。この結果は,アストロサイトの微細突起が,外部からの刺激に最も素早く,敏感に応答する場所であることを直接的に示している。

この新規手法は,「グリア細胞活動の謎」を紐解くための、極めて強力なツールとなることが期待され,脳のさまざまな生理機能や神経変性疾患・脳梗塞等の病理機能の解明につながる可能性があるとしている。

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