東大ら,ショウジョウバエの老化による特定の嗅覚神経細胞の死が異常行動の原因となることを発見

東京大学と米カリフォルニア大学,米スクリプス研究所らは共同で,老化した個体の行動変化の一因が,匂いを感知する神経細胞(嗅覚神経細胞)の細胞死であることを突き止めた(ニュースリリース)。

一般に,老化に伴って記憶学習,認識等の脳機能は低下する。その一因として老化に伴う神経細胞の細胞死が注目されており,これまで多くの研究者によって神経変性疾患における細胞死が研究されてきた。しかし,正常な老化の過程における細胞死はほとんど研究されていなかった。

研究グループはまず,正常な老化における脳内の細胞死を観察する目的で,細胞死に必要な酵素・カスパーゼが,いつ,どの神経細胞で活性化しているか解析した。その結果,老化したショウジョウバエの神経細胞のうち,特に匂いを感知するのに重要な神経細胞「嗅覚神経細胞」でカスパーゼが活性化していることが明らかになった。

ショウジョウバエの嗅覚神経細胞は,約50種類存在し,それぞれ神経細胞ごとに感知する匂いが異なる。カスパーゼは,この50種類の嗅覚神経細胞のうち,特に「リンゴ酢や酵母の匂い」を感知するOr42b神経細胞で活性化していた。この結果から,老化ショウジョウバエでは,Or42b神経細胞が細胞死していることが予測され,事実,老化したショウジョウバエでは若いショウジョウバエよりも細胞数が減少していることが確認された。

ところが,この細胞死が起こらないようにOr42b神経細胞でカスパーゼが活性化できないようにしたショウジョウバエでは,老化した場合でもリンゴ酢を感知することができ,最終的にリンゴ酢の場所へ集まることができた。

この研究では,老化に伴った個体の行動の変化を,特定の神経細胞における細胞死で説明することに成功した。今後は,なぜ正常な老化において特定の嗅覚神経細胞が細胞死しているのか,その原因を探ることで,神経変性疾患時における神経細胞の細胞死の原因,ひいてはその発症機序の理解に繫がることも期待される。