九大,蛍光分⼦から100%の発光効率を実現する有機EL素⼦の開発に成功

九州⼤学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)センター⻑/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)主任研究者 安達千波⽮教授らの研究グループは,内部EL 量⼦効率100%を⽰す蛍光材料を発光材料とした,有機EL 素⼦の開発に成功した(プレスリリース)。

蛍光材料を発光材料とした有機EL素⼦は,⼀重項励起状態(S1)からの放射遷移を発光として利⽤するものであり,1980 年台後半から研究開発が開始され,広範な材料開発により,現在ではディスプレーや照明⽤途として実⽤化が進められてきた。

しかし,蛍光材料を発光材料とした有機EL素⼦はリン光材料を発光材料とした有機EL素⼦と⽐較し,⾼い素⼦耐久性を⽰すものの,その内部EL 量⼦効率の理論限界は25%に留まり,発光効率の向上が課題となっていた。

これまでOPERA では,内閣府最先端研究開発⽀援プロジェクト(FIRST)において,熱活性化遅延蛍光(TADF)による第三世代の有機発光材料「Hyperfluorescence」を⽤いた⾼効率有機EL デバイスに関する研究開発を進めてきた。

今回の研究では,TADFの三重項励起⼦を⼀重項励起⼦にアップコンバージョンする技術をさらに発展させ,蛍光分⼦を発光材料とする有機EL 素⼦中にTADF 材料をアシストドーパントとして有機EL 素⼦の発光層中へ分散することで,電気励起下でTADF 分⼦上にて⽣成された三重項励起⼦と⼀重項励起⼦を,すべて蛍光分⼦へエネルギー移動させることが可能になり,100%の効率で蛍光分⼦からの発光を得ることに成功した。

また,この⼿法を⽤いた素⼦では,最終的に励起⼦を光にする発光材料として電気化学的に⾼い安定性を有する蛍光分⼦を⽤いることから,素⼦の駆動耐久性も著しく向上できることも明らかにした。

今回の研究は,⻑年に渡り研究開発がなされてきた,合成化学的に設計⾃由度の⾼い蛍光分⼦を発光材料として⽤いる有機EL 素⼦に適切なTADF 分⼦を発光層にアシストドーピングするという,汎⽤性が⾼くかつ簡便な⼿法によって,発光効率を⾶躍的に向上する新発光機構として,有機EL 素⼦の究極のデバイス設計指針を実証するもの。

この成果により,レアメタルを含有する有機⾦属発光材料を使⽤することなく,蛍光分⼦を⽤いて,⾼効率EL 発光と⾼耐久性の両⽴させることが可能となり,TADF を⽤いた有機EL デバイスの早期実⽤化につながる。