東大,量子暗号通信における「読まれたら気づく」方式に代わり「そもそも読まれない」方式を提案

東京大学と国立情報学研究所の研究グループは,従来とは全く異なる動作原理に基づく量子暗号方式を提案し,通信路の雑音量を監視せずにセキュリティを確保できることを証明した(プレスリリース)。

量子暗号は量子力学の性質を利用して,盗聴者の計算能力や技術レベルに依存しない強固なセキュリティを持った通信を可能にする技術。既存の量子暗号方式は全て,盗聴者が盗み見ると変化する通信路の雑音量を監視することで,不確定性原理を介して盗聴された情報量を見積るという仕組みに基づいていた。この従来法の欠点のひとつとして,使用している通信路にもともとあった雑音も,盗聴者が引き起こしたと仮定しなければならず,その分だけ効率が低下してしまうことがあった。

新方式は,基本的に通常のレーザ光源と干渉計の組み合わせにより実現可能。、レーザー光源からの微弱光パルスの列に,デジタル光通信でも使用されている差動位相変調という方式でビット値の情報を載せて送信する。受信者は,遅延回路を含んだ干渉計を用いてパルスをランダムにずらして重ね,光子検出によりビット値を読み出す。

これだけのことで,盗聴者は何をしても,一定の小さい情報量しか得られず,通信路の監視をせずにセキュリティを確保できることを証明した。この成果は「読まれたら気づく」方式から,「そもそも読まれない」方式への大きな転換となるもの。従来の方式に比べると,監視に関わる手間が省かれ,雑音が大きい通信路でも秘匿通信が可能になる。

この成果は,量子暗号の最初の提案以来30年ぶりに,本質的に新しい量子効果の利用法を提唱するもので,暗号にとどまらず,広範囲な発展が期待される。