理研、免疫応答の要となる分子の閾値決定機構を解明

理化学研究所(理研)は、炎症や免疫応答の要となる転写因子「NF-kappaB(NF-κB)」の閾値を決定する分子機構を明らかにした。細胞内情報の増幅機構がアナログな分子情報をデジタルに変換し、1細胞ごとのNF-κBのいき値を決定することが分かった。(ニュースリリース

転写因子は細胞や組織の性質、病態を決定するという重要な役割を持つ。炎症や免疫応答においては、NF-κBが細胞の状態をつかさどっている。NF-κBの活性が十分でない場合は免疫不全、逆に過剰に活性化されると自己免疫疾患やがんを引き起こすことが知られている。

このことから、NF-κBには適切な活性の範囲と活性化の有無を決定する閾値があるのではないかと考えられていたが、多くの研究者がこの課題に取り組んだにも関わらず、その分子機構は全く分かっていなかった。

共同研究グループは、免疫細胞の1つであるB細胞の情報伝達経路「CARMA1-TAK1- IKK」に注目し、この経路について詳細な分子動態の計測を行ない、数理モデリングにより解析した。その結果、経路内に存在する細胞内情報を増幅する正のフィードバックが、B細胞受容体のアナログの分子情報をデジタル(0か1)活性に変換し、1細胞ごとにNF-κBの閾値を決定していることが分かった。

NF-κBの活性化に関わるリン酸化酵素「IKK」の異常と疾病との関連はすでに広く知られているが、この研究ではアダプター分子「CARMA1」の重要性も明らかになった。CARMA1の遺伝子異常は、がんやアトピー性皮膚炎の発症にも関与することが臨床データからも明らかであり、この研究成果はこれらの疾病の発症機構を解く鍵になると期待できる。